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インタビュー
2024年04月30日(更新日:2025年10月27日)

【増田貴久氏に聞く】オンラインゲームいじめ・トラブルのサインと対処法!親が知るべき予防策

オンラインゲームで子どもがカッとなって、友達とギクシャクしてしまったみたい。ゲームが原因なんだから、ゲームは禁止!

それは最悪の対応じゃ!ほかにできることはたくさんあるゾイ!

もくじ
増田貴久増田貴久

 公認心理師・精神保健福祉士・ASK認定依存症予防教育アドバイザー 中学時代に不登校やゲーム依存を経験。大学卒業後にゲーム会社に就職。
その後、依存症専門治療機関にて依存症治療プログラム開発や個別カウンセリング、依存症家族教室開催、アメリカでの依存症研修などを経験。
現在はフリーランスとして、ASK依存症アドバイザー研修の講師や、ゲーム依存・不登校に関する家族支援講座、個別相談支援などを実施している。

 

 子どもがオンラインゲームをやっている時に、ケンカしている?トラブルになっている?と思ったことはないでしょうか?ゲームで興奮して、友達に暴言を吐いてしまう我が子の姿を見たことがあるかもしれません。実は、そんな暴言を吐いた次の日には、学校で仲間外れにされる等のいじめに発展することも多くなっているようです。オンラインゲームがきっかけとなるいじめやトラブルに対して親が知っておくべき知識を、公認心理師・精神保健福祉士の増田貴久さんに聞きましたので、ぜひ参考にしてください。

オンラインゲームいじめの特徴と、オンラインゲームならではのトラブルや原因

 リアルのいじめとオンラインゲームなどのインターネット上のいじめには、どのような違いがあるのでしょうか?

現実のいじめとインターネット上のいじめはつながっている

現実のいじめとインターネット上のいじめはつながっている

——現実(リアル)のいじめとインターネット(オンライン)上のいじめの違いについて教えてください。

増田:ある集団の中のひとりの子どもが「リアルではいじめられてないけど、インターネット上ではいじめられている」ということはまずないですね。その点で違いはないと思いますが、親や先生などの第三者が見て、いじめが起きていた「証拠」が残るのがインターネット上のいじめであり、いじめの発覚はインターネットからというケースも多いです。
子どものいじめは、大人から見えにくい状態で行われていることを、まず親側は認識しておきたいですね。実際、不登校の原因はいじめだと認識している先生は0.2%であるのに対し、子どもの21%が不登校の原因はいじめだと答えた調査結果もあります。オンラインゲームを介したトラブルも、親の気がつかない水面下で進行している可能性もあります。

オンラインゲームいじめが起きる理由①:言葉だけのコミュニケーションの弱点

増田:一方で、オンラインゲームならではの、いじめやトラブルにつながりかねない要因もあります。そのひとつが、言語だけのコミュニケーションです。
オンラインゲームやインターネット上のコミュニケーションは、テキストチャットやボイスチャットを使って「言語だけ」で行っていますよね。
言語学の調査結果では、人のコミュニケーションのうち、言語的なものは全体の20%しかないと言われています。実は、私たち人間は「表情」「声のトーン」「雰囲気」など、非言語的なものも含めてコミュニケーションを行っているんです。
しかし、オンラインゲームやインターネット上では、コミュニケーション全体のうちの20%だけの言語的なものだけでコミュニケーションをしているからトラブルが起きやすいんです。特に子どもは語彙力や表現力が未熟なため、言語だけのコミュニケーションでは、意図しない誤解が生まれやすくなってしまいます。

——子どもや若年層がよく使う「w(草)」という言葉も、純粋に面白いという意味もあったり、相手や対象を馬鹿にしているニュアンスも含んでいることもあったりと、使いどころが結構難しい言葉ですよね。

増田:そうなんです。非言語情報がないことで、何気ない一言がオンラインゲーム内のトラブルを引き起こすケースは少なくありません。

オンラインゲームいじめが起きる理由②:リアルの経験が未熟なのに、いきなりオンラインデビュー

増田:では、オンラインゲームやインターネット上ではないリアルの場であれば、問題ある言動を誰もしないのか、と言えばそんなことはありません。
僕自身、子どものころ野球をしていた時には、初対面の相手チームであっても煽っていたんですよ。「ピッチャービビってる!」とか。
でも、そのようなふるまいをすれば、相手は不愉快だし、当然不快になって、「もう二度と試合はしない」と断られてしまう。結果、貴重な対戦相手を失うことにもなってしまうんです。しかし、そこで一度反省しておくと、その後に初対面の相手チームと試合をするときには、最低限の礼儀はわきまえておこうという心構えが自然とできるんですよね。
ただ今の子どもたちの場合、このような「リアルでの前段階」がすっ飛ばされ、いきなりオンラインの世界で顔が見えない状態で、見知らぬ人とゲーム対戦ができてしまいます。

——リアルで相手と気まずい思いをしたり、ギクシャクしたりなどの「小さな失敗」の経験がないまま、相手の雰囲気を察することが難しいオンラインゲームにデビューをしてしまえば、対戦相手を煽ったり、感情に任せて暴言などを吐いたり、トラブルを招きかねませんね。

増田:そうなんです。「この小さな失敗からの学びの欠如」がオンラインゲームでの深刻なトラブルに発展する大きな原因の一つです。

トラブル防止対策:オンラインゲームデビューの前に、顔を合わせてゲームをしよう

増田:ですので、子どもをオンラインゲームにデビューさせる前には、リアルで実際に顔を合わせてゲームで対戦してみることをお勧めします。
親子でゲームをしてもいいですし、仲のいい友達を家に呼んでみんなでゲームしてみるのもいいですね。「こういうこと言われたら嫌だよね」ということをあえてやってみるのも、マナーや相手の気持ちを学ぶ機会になります。
スポーツ選手は、基本的なマナーはもちろん、相手チームに対する敬意やファンに対するふるまいも問われます。ゲームもeスポーツですから、プレイ中のマナーや対戦相手に対するふるまいを教えてあげるのは、とても大事なことです。トラブルを避けるためにもオンラインゲームを始める前に、リアルの生活で基礎となる社会性を親が子どもにしっかりと伝えることが重要です。

インターネット上のいじめ、加害者になったら?被害者になったら?適切な対応でトラブル拡大を防げ!

 リアル、オンライン問わず、いじめは「見えにくい」と冒頭にお話がありました。では、オンラインゲームやインターネット上で発生したトラブルやいじめを早期に見つけ、適切に対応していくためにはどうすればいいのでしょうか?

インターネット上のいじめを早期発見するためにできること

インターネット上のいじめを早期発見するためにできること

——いじめの証拠はインターネット上に残る、とお話がありましたが、そうなると早期発見のためには、子どものスマホをこっそり見るしかないのでしょうか?

増田:いじめの早期発見においては、親が「いじめの証拠を見つける」というよりは、「子どもがいじめ被害を親に話せる関係性を日ごろから作っておくこと」が大切です。
その際に良くないのが、親がオンラインゲームやインターネットに否定的な態度を取ることです。オンラインゲームでのいじめを訴えても「ゲームやネットをしているから、こんなことになる!やらなければいい!」と親に言われてしまうのではないか、と子ども側に思われているような関係性では、いじめの事実を隠しかねません。基本的に子ども達はインターネットやオンラインゲームが大好きですから、それらができなくなる選択は避けようとしてしまうのです。
早期発見のためにも、親はオンラインゲームやインターネットを頭ごなしに否定しないで、子どもがトラブルを安心して話せる「安全基地」のような存在になることが重要です。

いじめ発覚!保護者の対策①:まずはオンラインゲームなど原因から離れる

——オンラインゲームやインターネット上でいじめが発覚した場合、親ができることは何でしょうか。

増田:まずは、いじめの原因となったオンラインゲームや、インターネット上のサービスから離れるというのが、子どもが被害者、加害者どちらの立場でも大切です。なぜかというと、トラブルの最中にいると感情が昂って、冷静な判断が難しくなってしまうからです。原因から離れた上で「どうしたら安全にゲームができるか」を子どもと一緒に話し合いたいですね。オンラインゲームなどの一時的な休止は、トラブルから距離を置き、状況を整理するために不可欠な初期対応です。

いじめ発覚!保護者の対策②:証拠を残すためにもスクショは必須

増田:もしも、お子さんが被害者側で、加害者側から「性的な画像を送れ」「課金アイテムを送れ」といった、恐喝の域までくるような悪質ないじめ被害に遭っている場合は、やり取りの画面をスクリーンショットなどで撮影して、証拠として残しておくことが大事です。

——相手に「そんなことしてない、言ってない」と、逃げられるのを防ぐために重要ですね。

増田:オンラインゲームのトラブルの場合、証拠を揃えた上でゲーム会社に通報するのも有効です。ゲーム会社が利用規定に基づいて相手のアカウントを停止するなど対応をしてくれる可能性もありますが、この場合も確実な証拠が必要です。

※オンラインゲーム内のトラブル対応は、各ゲームの運営会社によって異なります。

いじめ発覚!保護者の対策③:学校だけでなく、公的な第三者機関にも相談する

——オンラインゲームやインターネット上のいじめは、学校に相談するのがいいか悩ましいです。学校以外の相談先はあるのでしょうか。

増田:オンラインゲームなどのトラブルは放課後の時間で起きていることなので、どこまで先生が対応するのか、というのは悩みますよね。
そういうときに使える相談先として、学校から子どもに貸与されたタブレットに、匿名で自治体の教育相談窓口などに相談できるアプリが入っているケースも多いです。
「先生に相談して、かえってややこしいことになったら困る」というのは子ども自身がとても気がかりなところですから、最初は匿名で、公的な第三者機関に相談したほうが、安心して子どもも状況を整理できると思います。
相手がクラスメイトの場合、最終的には担任の先生などに相談する局面も出てくるとは思います。しかしその前に、第三者に相談して気持ちを整理できるのは、今のインターネット社会のいい面でもあるので、ぜひ活用したいですね。

公的な相談窓口はこちらも参考に
近年の子供のスマホ・ゲームのトラブル事例とその対策をインターネット協会に聞いてきた

オンラインゲームでよくある「トラブルの種」はこうして解決

 「友達間でゲームのレベルに差がある」「ゲームでついカッとなってしまう」など、大きなトラブルにもつながりかねない「トラブルの種」に、どう対処していけばいいのでしょうか。

オンラインゲームのトラブル対策①:友達とゲームのレベルが違ったら?

オンラインゲームのトラブル対策①:友達とゲームのレベルが違ったら?

——いじめではないものの、友達とゲームのスキルに差があり、「この子は下手だから一緒に遊びたくない」というケースもありますよね。特に今のオンラインゲームはチーム戦が多いので、下手な人がいるとランキングにも影響が出てしまい、トラブルにもなりやすいです。

増田:子どもたちを見ていると、すごく工夫していますよ。「本気のチーム」と「遊び用チーム」を作り、アカウントも2つ作って、本気チームはランキング上位を狙ってガチでぶつかり、遊び用チームは勝敗を気にせずみんなでわちゃわちゃと遊ぶために使いわけているんです。

——自分たちで「楽しく遊ぶ時」と「本気の時」を使い分けているなんて、子ども達も頼もしいですね。

増田:子どもがオンラインゲームのスキルによる問題で友達とうまくいっていない場合、親は「じゃあどうやったら楽しく友達と遊べるようになるかな」とアイデアを出して、一緒に考えてあげるといいですね。このように具体的な解決策を親子で一緒に考えることは、将来的なトラブルへの対応力を養うこともできます。

オンラインゲームのトラブル対策②:ゲームでカッとなり、暴言が出るときは?

増田:オンラインゲームでのトラブルを避ける対策として、カッとなったときの対処も押さえておきたいですね。カッとなって相手に暴言を吐き、ゲーム会社に通報されたら、せっかく育ててきたアカウントを停止されかねません。
でも、カッとなった気持ちそのものを抑え込むと、変な方向に暴発します。ゲームに負ければ誰だって悔しいですから、カッとなるのは当然です。考えたいのは「どういう形でカッとなった気持ちを出せたら、本人も周りも安全か」ということです。
具体的な対処法として、暴言が出そうになったらマイクをオフにして言うとか、物に八つ当たりしたくなったら柔らかい枕をたたくなどがあります。中にはたたくためのサンドバックを置いているご家庭もありますよ。また、海外では黄色いニワトリのおもちゃ(びっくりチキン、シャウティングチキン)もイライラ時のストレス発散に使われています(日本でも購入可能)。これはお腹を押したら凄い鳴き声で叫ぶんです。

——「カッとなってはいけない」は無理ですが、「カッとなったとき、どう安全に気持ちを出すか」ならできそうですね。オンラインゲームでの暴言トラブルを未然に防ぐためにも、感情の安全な発散方法を親子で考えてもいいですね。

オンラインゲームの暴言対策はコチラの記事がおススメです。
画面の向こうには同じ人間が繋がっているのに大丈夫?親としてやめてほしいゲーム中の子どもの暴言の対策方法

オンラインゲームのトラブル対策③:デジタルタトゥーは一生消えない!

——ネットやオンラインゲームによるいじめを防ぐために親が子どもに伝えておきたいことや、親子で作っておきたい約束には何があるでしょうか。

増田:「インターネット上のできごとは全て記録されている」ことは伝えたいですね。サービス運営側が、事件が起きた際に警察などの関係機関に提出できるように、記録は全て保管されています。

——本人がまずいと思って消したとしても、運営側はバックアップの古いデータも保管していますよね。匿名で書いたことだって、調べることもできますし。

増田:その通りです。オンラインゲームのログは全て残ってしまい、一生消すことはできないという事実は子どもにも強く認識させるべきです。それに基づいて親子の約束としては「インターネットに悪口や人が傷つくことは絶対に書かない・言わない」がいいですね。自分がやったことを100人に見てもらっても問題ないことしか、オンラインゲームやインターネット上ではしないことが大切です。

——証拠が明確に残る以上、リアルよりもクリーンなふるまいが、オンラインゲームやインターネット上では求められますね。

増田:はい。「インターネット上で書くこと・言うこと」と、「リアルでお母さんに愚痴ったりすること」は分けましょう、ということですね。オンラインゲームに限らず、インターネット上のトラブルは、一度公開されると永遠に残るデジタルタトゥーとなることを、親子で共通認識として持つことが大切です。
このような共通認識や、約束作りの話し合いなどは、何かあったときに親に相談しやすい関係作ることにもつながってきますので、少しずつ家庭で取り組んでみてください。

POINTまとめ
  • いじめは親から見つけにくいので、いじめ被害を子どもが言える関係性を作りたい
  • いじめ加害、被害に遭った場合、該当のサービスから「まずは離れる」
  • ゲームでカッとなったとき、どう安全に気持ちを処理するかを考える

POINTを意識して約束を作ってみる

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石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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