オンラインゲームで子どもがカッとなって友達とギクシャクしてしまったみたい。ゲームが原因なんだから、ゲームは禁止!
それは最悪の対応じゃ!ほかにできることはたくさんあるゾイ!!
- 増田貴久さん
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公認心理師・精神保健福祉士・ASK認定依存症予防教育アドバイザー 中学時代に不登校やゲーム依存を経験。大学卒業後にゲーム会社に就職。
その後、依存症専門治療機関にて依存症治療プログラム開発や個別カウンセリング、依存症家族教室開催、アメリカでの依存症研修などを経験。
現在はフリーランスとして、ASK依存症アドバイザー研修の講師や、ゲーム依存・不登校に関する家族支援講座、個別相談支援などを実施している。
子どもがオンラインゲームをやっている時にケンカしている?と思った事はないでしょうか?ゲームで興奮して、つい友達に暴言を吐いてしまう事も‼そんな暴言を吐いた次の日、学校で仲間外れにされる等のいじめも多くなっているようです。オンラインゲームがきっかけとなるいじめに対して親が知っておくべき知識を公認心理師・精神保健福祉士の増田貴久さんに聞いてきましたので、ぜひ参考にしてください。
オンラインゲームいじめの特徴と、オンラインゲームならではの原因
リアルのいじめとオンラインのいじめには、どのような違いがあるのでしょうか?
現実のいじめとネットのいじめはつながっている
――リアルのいじめとネット上のいじめの違いについて教えてください。
増田:
ある集団の中のひとりの子どもが「リアルではいじめられてないけど、ネット上ではいじめられている」ということはまずないですよね。その点で違いはないと思いますが、親や先生などの第三者が見て、いじめが起きていた「証拠」が残るのがネットであり、いじめの発覚はネットからというケースも多いです。
なお、不登校の原因はいじめだと認識している先生は0.2%に対し、子ども本人は21%が不登校の原因はいじめだと答えた調査結果もあります。そのぐらいいじめは大人から見えない状態で行われていることを、まず親側は認識しておきたいですね。
オンラインゲームいじめが起きる理由①言葉だけのコミュニケーションの弱点
増田:
一方で、オンラインならではのいじめにつながりかねないトラブルもあります。
というのも、ゲームやネットは、チャットやボイスチャットを使っての「言語だけ」のコミュニケーションですよね。
人のコミュニケーションのうち、言語的なものは全体の20%しかないという言語学の調査結果もあります。「表情」「雰囲気」など非言語的なものも含めて私たちはコミュニケーションを行っています。
ゲームやネットでトラブルが起きやすいのは、コミュニケーション全体のうちの20%だけの言語的なものだけでコミュニケーションをしているからなんですね。特に子どもは語彙力がないため、誤解も生まれやすくなってしまいます。
――子どもや若年層がよく使う「w(草)」という言葉も、純粋に面白いという意味もあれば、相手や対象を馬鹿にしているニュアンスも含んでいることもあったりと、使いどころが結構難しい言葉ですよね。
オンラインゲームいじめが起きる理由②リアルで経験不足の中いきなりオンラインデビュー
増田:
ただ、リアルならば問題ある言動を誰もしないのか、と言えばそんなことはありません。
僕自身、子どものころ野球をしていた時に相手チームを煽っていたんですよ。「ピッチャービビってる!」とか。
でも、そのようなふるまいをすれば当然気まずくなって、もう試合はしない、みたいになってしまう。そこで反省を一度しておくと、その後に知らない相手と戦うときにも、最低限の礼儀はわきまえようという心構えは自然とできるんですよね。
ただ今の子どもたちの場合、そういった「リアルでの前段階」がすっ飛ばされ、いきなりオンラインで顔が見えない状態で見知らぬ人とゲーム対戦できてしまいます。
――リアルで相手と気まずい思いになったり、ギクシャクしたりなどの「小さな失敗」ができないまま、相手の雰囲気を察しづらいオンラインデビューをしてしまえば、確かに感情に任せて暴言などをやらかしかねないですね。
オンラインゲームデビューの前に、顔を合わせてゲームをしよう
増田:
ですので、子どもをオンラインゲームデビューさせる際は、その前にリアルで実際に顔を合わせて対戦してみることをお勧めします。
親子でゲームをしても、仲のいい友達を家に呼んでみるのもいいですね。「こういうこと言われたら嫌だよね」ということをあえてやってみるのも学びになります。
スポーツ選手はマナー、ふるまいも問われます。ゲームもe-スポーツですから、マナーを教えてあげるのはとても大事です。
ネット上のいじめ、加害者になったら?被害者になったら?
いじめは「見えにくい」と冒頭にお話しがありました。いじめを早期に見つけ、対応していくためにはどうすればいいのでしょうか?
いじめの早期発見のためにできること
――いじめの証拠はネットに残る、とお話がありましたが、そうなると早期発見のためには子どものスマホをこっそり見るしかないのでしょうか?
増田:
いじめの早期発見においては、親が「いじめの証拠を見つける」というよりは、子どもがいじめ被害を親に話せる関係性を日ごろから作っておくことが大切です。
その際に良くないのが、親がネットに否定的なことです。オンラインでのいじめを訴えても「ゲームやネットをしているからこんなことになる!やらなければいい!」と親に言われてしまうのではないか、と子ども側に思われているような関係性では、いじめの事実を隠しかねません。基本的に子ども達はネットが大好きですから、ネットができなくなる選択を避けてしまいます。
いじめ発覚!その時親ができること①まずは離れる
――ゲーム、ネットでいじめが発覚したあと、親ができることは何でしょうか。
増田: 一旦いじめの原因となったゲームやネットサービスからまずは離れるというのが、子どもが被害者、加害者どちらの立場でも大切です。そこで「どうしたら安全にゲームができるか」を一旦話し合いたいですね。
――いじめで「炎上」状態のネットやゲームを見ていては、感情が乱されてしまいますよね。
いじめ発覚!その時保護者ができること②スクショは必須
増田: 特に加害者側から「性的な画像を送れ」「課金アイテムを送れ」といった、恐喝の域までくるような悪質ないじめ被害にあっている場合は、スクリーンショットで証拠を残しておくことが大事です。
――証拠がなければ相手に「そんなことしてない、言ってない」と言われてしまいますからね。
増田: ゲーム会社に通報するのもいいですね。ゲーム会社が利用規定に基づいて相手のアカウントを停止してくれる場合もありますが、この場合も証拠が必要です。
いじめ被害にあっているとき、誰に相談したらいい?
――オンラインゲームのいじめは、学校に相談したらいいか悩ましいです。学校以外の相談先はあるのでしょか。
増田:
ゲームは放課後の時間で起きていることなのでどこまで先生が対応するのか、というのはありますよね。 そういうときに使える相談先として、最近学校でもタブレット学習が始まっていますが、学校から子どもに貸与されたタブレットに、匿名で自治体の教育相談窓口などに相談できるアプリが入っているケースも多いです。
「先生に相談してかえってややこしいことになったら困る」というのは子ども自身とても気がかりなところですから、最初は匿名で、公的な第三者機関に相談したほうが、安心して子どもも状況を整理できると思います。
相手がクラスメイトの場合、最終的には担任の先生などに相談する局面も出てくるとは思いますが、その前に第三者に相談し気持ちを整理できるのは、今のネット社会のいい面でもあるので、活用したいですね。
ゲームでよくあるトラブルの種はこうして解決
「友達間でゲームのレベルに差がある」「ゲームでついカッとなってしまう」など、大きなトラブルにもつながりかねないこれらの「トラブルの種」にどう対処していけばいいのでしょうか。
子どもたち自身も工夫している~友達とゲームのレベルが違ったら?~
――いじめではないものの、友達とゲームのスキルに差があり、「この子は下手だから一緒に遊びたくない」というケースもありますよね。特に今のゲームはチーム戦が多いので、下手な人がいるとランキングにも影響が出てしまいます。
増田: スポーツのクラブチームと一緒で、ずっと補欠の子もいますよね。でも子どもたちを見ているとすごく工夫していますよ。「本気のチーム」と「遊び用チーム」を作り、アカウントも2つ作って、本気チームはもうガチでぶつかり、遊び用チームはみんなでわちゃわちゃと遊ぶために使いわけているんです。
――自分たちで「楽しく遊ぶ時」と「本気の時」を使い分けているなんて、頼もしいですね。
増田: 子どもがゲームのスキルによる問題で友達とうまくいっていない場合、親は「じゃあどうやったら楽しく友達と遊べるようになるかな」と一緒に考えてあげるといいですね。
「ゲームでカッとなったとき」の対応も押さえておきたい
増田:
ほか、ゲームでカッとなったときの対処も押さえておきたいですね。カッとなって、相手に暴言を吐き通報されたら、せっかく育ててきたアカウントを停止されかねません。
でも、カッとなった気持ちそのものをダメだと抑え込むと、変な方向に暴発します。ゲームに負ければ誰だって悔しいですから、カッとなるのは当然です。考えたいのは「どういう形でカッとなった気持ちを出せたら、本人も周りも安全か」ということです。
ひどいことを言いたくなったらマイクをオフにして言うとか、物に八つ当たりしたくなったら枕をたたくとか。サンドバックを置いているご家庭もありますよ。また、海外では黄色いニワトリのおもちゃもイライラ時のストレス発散に使われています(びっくりチキン、シャウティングチキンなどで検索すると日本でも購入可能)。これはお腹を押したら凄い鳴き声で叫ぶんです。
――「カッとなってはいけない」は無理ですが、「カッとなったとき、どう安全に気持ちを出すか」ならできそうですね。
ネット上で書くこと、とリアルで愚痴ることは別!
――ネットやゲームによるいじめを防ぐために親が子どもに伝えておきたいことや、親子で作っておきたい約束には何があるでしょうか。
増田: 「ネット上のできごとは全て記録されている」ことは伝えたいですね。サービス運営側が、事件が起きた際に警察などの関係機関に提出できるように、記録は全て保管されています。
――本人がまずいと思って消したとしても、運営側はバックアップの古いデータも保管していますよね。匿名で書いたことだって、調べることもできますし。
増田: その通りです。ですので、ネット上でしてしまったことは一生消せません。それに基づいて親子の約束としては「ネットに悪口や人が傷つくことを書かない」がいいですね。自分がやったことを100人に見てもらっても問題ないことしか、ゲームやネットの中はしないことです。
――証拠が明確に残る以上、リアルよりもむしろクリーンなふるまいがネット上では求められますよね。
増田: はい。「ネット上で書くこと」と、「リアルでお母さんに愚痴ったりすること」は分けましょう、ということですね。
- POINTまとめ
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- いじめは親から見つけにくいので、いじめ被害を子どもが言える関係性を作りたい
- いじめ加害、被害にあった場合も、該当のサービスから「まずは離れる」
- ゲームでカッとなったとき、どう安全に気持ちを処理するかを考える
- インタビュアー/ライター
石徹白 未亜 - いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂