親子でスマホ・ゲームお約束メーカー
インタビュー
2023年10月17日

思春期・反抗期の子どものゲーム・スマホの「やりすぎ」が心配だけど干渉していいの?

子どもが反抗期でさっぱり言う事を聞かないわ!

「言う事を聞かせる」アプローチだと、親子ともにへとへとじゃ!

もくじ
増田 貴久さん増田 貴久さんプロフィール
公認心理師・精神保健福祉士・ASK認定依存症予防教育アドバイザー 中学時代に不登校やゲーム依存を経験。大学卒業後にゲーム会社に就職。
その後、依存症専門治療機関にて依存症治療プログラム開発や個別カウンセリング、依存症家族教室開催、アメリカでの依存症研修などを経験。
現在はフリーランスとして、ASK依存症アドバイザー研修の講師や、ゲーム依存・不登校に関する家族支援講座、個別相談支援などを実施している。

今までは、親の言う事を聞いていたのに思春期・反抗期に入った子どもが言う事を聞いてくれなくなったと悩む親御さんも多いのではないでしょうか。特に勉強の妨げになるゲームやスマホの「やりすぎ」をなんとかしたいと思う事もあるはず。今回は、公認心理士・精神保健福祉士の増田貴久さんに思春期・反抗期の子どもと上手に付き合っていく方法を聞いてきました。思春期・反抗期で悩んでいる親御さんは参考にしてみてください。

反抗期はなぜ起きるのか?

そもそもなぜ反抗期は起こるのか?反抗期のメカニズムについて尋ねました。

12歳は子どもではなく「青年」。大人の入り口にいる

――反抗期は何歳ぐらいから始まるのでしょうか。

増田:女子は小学校4、5年生あたりから始まりますね。男子は全体的に女子より1、2年遅れる傾向があり、中学校1、2年生あたりがピークかなと思います。

――反抗期は必要なのでしょうか。

増田:こちらの回答のために、まず人間の生涯にわたる発達についてお話しますね。 心理学者のエリクソンは人生を8段階に区切り、うち「青年期」を12歳から22歳と定めています。

――12歳に「青年」のイメージはなかったです。思いのほか青年期のスタートは早いんですね。

増田:はい。12歳は大人の入り口なんです。ただ、実際の中身は、子ども8割、大人2割ぐらいの割合でしょうけれど。

増田さん インタビュー風景

12~22歳の青年が乗り越えなくてはいけない課題とは?

増田:そして、エリクソンは各発達段階には乗り越えないといけない「課題」があると提唱しており、青年期の課題は「アイデンティティの確立」になります。

――よく聞く言葉ではありますが、アイデンティティについてあらためて教えてください

増田:「自分はどう生まれ、どう死ぬのか、 何が好きで何が嫌いなのか、何がやりたくて、何がやりたくないのか」といったことですね。青年期はこういったことを決める時期です。
逆から言えば「誰かに言われ、それに従う」こと、例えば「勉強した方がいいよと言われたから勉強する」はアイデンティティではありません。
もちろん12歳になったから、急に「僕、または私はこう生きて行く!」とアイデンティティが確立するわけがなく、青年は苦しみ、さまよい、変なこともいっぱいして、紆余曲折の中もがき苦しみながらアイデンティティを確立させていきます。この青年がさまよう期間を「モラトリアム(猶予期間)」といいます。

――「大人」がはじまりつつも、まだまだ「子ども」であり、さまよう時期が青年期なんですね。そうなると、いわゆる「黒歴史」的なものもモラトリアムの産物とも言えますね。

12~22歳の青年が乗り越えなくてはいけない課題とは?

青年期と受験が重なってしまう日本

増田:本来、青年期はしっかりモラトリアムの中でさまよった方がいいのですが、日本の場合、お尻を叩いてこの時期の青年を中学、高校、大学受験に向かわせていきます。
モラトリアムの最中でさまよう青年に対し、親が「この子にはこうなってほしい」と干渉し、それに対し青年たちが反発したり、キレたりする、これが反抗期だと思います。

思春期・反抗期の上手な親の接し方

大人の入り口に立っている思春期・反抗期の青年に、親はどう接していけばいいのでしょうか。

12歳を過ぎた青年は「親自身の大人の友達」と同じ感覚で接したい

増田:思春期・反抗期に入った青年との接し方ですが、基本は「親自身の大人の友達」と同じ対応でいいと思います。
友達の場合、意見の相違があったらお互い話を聞きますよね。 一方で思春期の親子喧嘩の始まりは、親側の「こうしようって言ったのになんでしないの」「こうしなきゃダメでしょ」「どうしてそんなこともわからないの」といったものがとても多いんです。でも、大人の友達相手に、こんな対応はできないですよね。

思春期・反抗期の上手な親の接し方

「好きにしたら、あなたの人生なんだから」

――しかし親子の場合、それで子どもが好き勝手に生活してしまっては心配という声も多そうです。

増田:子どもにはゲームやスマホをする権利もありますが、「その責任は自分が負う」と伝えることだと思います。そこだけはっきりとさせるのが、12歳からは手っ取り早いと思いますし、親も楽だと思います。
「好きにしたら。あんたの人生だから私は知らないわよ」って親に言われると「まずい!」と子ども自身も考えるじゃないですか。

――ガミガミ言われるよりドキッとしますね。

好きにしたら。あんたの人生だから私は知らないわよ

互いの違いを許容できる親子関係を

増田:思春期・反抗期より前の、子ども自身に考える力が足りないうちは、しっかりとした親子の約束が必要です。ですが思春期以降は、親は子どもを「自分の子ども」としてではなく、「もしかしたらこの子は私とは全然価値観が違う人なのかも?」と見つめると、発見があると思います。 基本は大人同士の人間関係だと思いましょう。

――思えば大人同士の人間関係で、「あの人あんなとこあるよね」とお互いに思っていたということもありますよね。

増田:ですよね。お互い思うことはたまにありつつも、お互いのいい所も知っていて、基本的には良好な人間関係を続けられているんですよね。親子だって同じです。

「ゲームやスマホの取り上げ」「勉強しない問題」について

基本的な親子関係の方針についてお話を聞いてきましたが、細かな「こんなときどうする?」というケースについても伺いました。

思春期・反抗期の子どもからスマホ・ゲームを取り上げると?

――今までのお話からいくと、思春期の子どもからスマホやゲーム機を取り上げる、というのは難しいでしょうね。

増田:はい。取り上げるのは無駄だと思います。中古端末は子どもでも買えますし、友達からお古のスマホを貰ったりなど、いくらでもやりようはありますから。
そうやって親に隠れてスマホを使っていて、果たして安全に使えるのか?という点が心配です。隠れてやった手前、 架空請求、パパ活、闇バイトに引きずり込まれたとか、本当にまずい状況になった時に、親と子どもが対立してる状況では子どもは親にヘルプを出せなくなってしまいます。
これがスマホやゲーム機を取り上げる大きなデメリットですが、これを上回るメリットが「取り上げること」にあるかといえば、実は無いんですよね。

増田さんインタビュー風景

ゲームやスマホでなく、ギターだったらどうか

――一方でゲームやスマホばかりしていたら心配、という声も多いですよね。

増田:ゲーム、ネットに対する親御さんの偏見を取り除いていただきたいですね。これがもし「ギター」だったら、どう感じますか?

――ギターに熱中する10代なんて、まさに「青春」という感じですね。

増田:ほら、ギターだと好ましく感じますよね。その熱中が今、ゲームになっただけなんです。子どもたちは、ゲームの中で青春を過ごしているんです。
私自身もゲームが好きで、やりすぎたなと思うこともあったりします。でも、この「無駄」もモラトリアムなんですよね。親にとっては無駄に思える時間も、その子の人格形成に必要なところもあったりするので、そこは長い目で見てあげた方がいいですね。

「ゲーム・スマホvs勉強」でなく、勉強の問題

――「子どもがゲーム・スマホに夢中で勉強しない」も、よく聞くお悩みです。

増田:そうですね。しかし「ゲーム・スマホの時間を減らしたら勉強をするか?」と言えば、かなり疑問が湧きます。本人は勉強したくないのですから、ゲーム・スマホの問題ではなく、勉強の問題だと思います。 そもそも、勉強が好きでしっかり成果を出せているという子どもは、そこまで多くはないはずです。

――大多数の子は仕方なく勉強していますよね。

増田:大多数の、勉強がそこまで好きではない子どもは、勉強するためのモチベーションを自分でどう作っていくかが大切ですよね。「推し活」など好きなことが勉強の原動力になっているケースは結構あります。「推しに会うために、東京の大学に行く」とか。それでいいと思います。
「何のために勉強するのか」を悩むのもアイデンティティの確立のために大切なことです。「そんなことは考えなくていいから、勉強しなさい」ではなく、親も一緒に悩んで欲しいですね。何より「勉強して大学に行く」以外の選択肢だってありますから。

思春期以降に結んでおいた方がいい約束はたった1つ

増田:色々お話してきましたが、日本は子育てにおいてお母さんの責任が大きすぎるんですよね。 「お前の育て方が悪いんだ」って、お母さんはあちこちから言われて、下手したら自分の夫からもそう言われる。これはどう考えてもおかしいので、その呪いを解いていくのもすごく大事です。子供は社会で育てていくものですから。

――そのような中で、思春期以降に親子で結んでおいた方がいい約束はありますか?

増田:思春期以降は『お約束メイカー』の趣旨に反してしまいますが、基本はやはり「大人同士」であり、あれもこれもと約束はしなくていいのかなとは思います。
ただ一点、「命にかかわること、犯罪や大事なネットリテラシー」は、しっかりと親子で共有してほしいですね。安易な気持ちで悪ふざけの動画を公開したり、自分の性的な画像が拡散されて一生を棒に振ってしまう事態は避ける。ここだけですよね。
親は心配であれもこれも注意したくなりますが、そうすると親の言うことを全部聞かなくなってしまいます。余計なことは言わないことが、大切ですね。

POINTまとめ
  • 12歳からはもう「大人」。親は大人同士のやり取りを意識して
  • スマホを「取り上げる」ことで問題が見えにくくなる
  • 思春期・反抗期以降のお約束はほどほどに

POINTを意識して約束を作ってみる

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子どもが学校に行かずにゲームばかりしている、親としてはとても不安ですよね。ご自身もゲームが好きで中学生の時に不登校を経験し、現在は精神保健福祉士として不登校の子どもを支援されている増田貴久さんに、不登校の原因や子どもとゲームの付き合い方について伺いました。
石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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