わが子が不登校になってしまった!なんで?成績不振?学校?家庭?いじめ?本人の性格?なぜなの?理由を教えて——!
不登校の理由は、子ども自身もわからんのかもしれんゾ……
- もくじ
- 増田貴久さん

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公認心理師・精神保健福祉士・ASK認定依存症予防教育アドバイザー
中学時代に不登校やゲーム依存を経験。大学卒業後にゲーム会社に就職。
その後、依存症専門治療機関にて依存症治療プログラム開発や個別カウンセリング、依存症家族教室開催、アメリカでの依存症研修などを経験。
現在はフリーランスとして、ASK依存症アドバイザー研修の講師や、ゲーム依存・不登校に関する家族支援講座、個別相談支援などを実施している。
不登校の子どもが増加する今、ゲーム依存は本当に根本原因なのか?
不登校の子どもが増加傾向にある現代。保護者にとって不安の一つが、我が子がゲーム依存になってしまい、それが不登校の引き金になっているのではないか?ということです。特に、小学生など低年齢からのゲーム利用が増える中、その心配はより切実です。
しかし、不登校の原因はゲーム依存と決めつけてしまうのは早計かもしれません。
今回は、ご自身も中学生の時に不登校とゲーム依存を経験し、現在は精神保健福祉士として小学生から思春期の不登校の子どもを支援されている増田貴久さんに、不登校の根本原因やゲームとの付き合い方などを伺いました。
不登校を経験して見えた、子どもにとってのゲームの存在
増田さんが不登校になったきっかけと、不登校時代にゲームがご自身にとってどんな存在だったのか伺いました。
なぜ不登校になったのか、当時の自分には分からなかった
——増田さんが不登校になったきっかけは、どのようなことでしたか?
増田:僕は、中学校二年生の春から学校に行けなくなったのですが、当時、自分でもどうして玄関から一歩が踏み出せないのか分からなかったんです。そもそも学校に行きたいのか、行きたくないのかすらも分からない。ただただ、体が動きませんでした。
実は、僕は小学校一年生からいじめられていたのですが、自分にとってはいじめられることが当たり前になってしまっていたんですよね。それでも、なんとなく「そんなものだろう」と過ごしていました。また、勉強が得意だったので、学校が楽しかったんですよ。
しかし中学生になると、いじめがエスカレートしていったんです。みんなの前でパンツを脱がされるということもありました。さらに成績も落ちてきてしまって、「僕は勉強ができる」という自分の土台も崩れてしまったんです。このようなストレスが積み重なって、心や意識よりも体が拒否反応を起こしてしまい、学校に行くことができなくなったのではないかと、今は思っています。
——「学校に行くといじめられるから、学校に行けない」と、いじめが不登校の原因だと考えそうですが、当時の増田さんにしてみれば、「学校に行けない理由がわからない」という状況だったのでしょうか。
増田:そうですね。精神医学的には「乖離(かいり)」と呼ばれていますが、いじめられている自分のことをどこかに飛ばしていたというか、遠くから自分を見ていたという感覚を記憶しています。ストレスにさらされ続け、いろいろ麻痺していたのかもしれません。
また、いじめ以外にも僕自身は繊細な性分もあるかと思います。例えば、自分が怒られていなくても先生が怒鳴る声や、近くの人が馬鹿にされているなど、周りの人のマイナス感情がとても辛くて…。でも、こんな僕の辛さを誰かに相談しても、どうせ受け取ってもらえないだろう、といった無力感も混ざって、学校という空間にいられない状況でした。
小学生の不登校でも同様に、いじめや環境の変化、子ども自身の性格など、複合的な要因が絡み合っていることが多いです。
不登校時代、ゲームが「命綱」だった

——不登校のころは、どのように過ごしていましたか?
増田:元々ゲームが好きだったので、最初の頃は家でゲームばかりしていましたね。「ドラゴンクエストⅢ」「FINAL FANTASYⅢ」など、やりこみ系のゲームをよくしていました。
——学校に行かないで、ゲームばかりしている子ども(増田さん)に対して、ご家族はどんな対応でしたか?
増田:母親はシングルマザーだったのですが、僕の不登校については何も言いませんでした。「学校に行け」「勉強しろ」「ゲームばかりするな」という、僕を責めるような言葉もなかったです。「なんとかなるよ」と言ってくれる太っ腹な母親でしたね。
ただ、僕自身はとても不安でした。不登校の子どもが24万人いる今とは違い、当時、学年で学校に行けないのは僕だけでした。何もしないで家にいると「誰しもが、当たり前に行けるはずの学校に行けない僕は終わった」という気持ちに苛まれましたね。
実は、不登校中に何度か自殺を考えたこともあります。当時、マンションの9階に住んでいて、ベランダから下をのぞき込みました。覚悟を決めて、「何かやり残したことはないか」と考えたときに、「ゾーマ(『ドラゴンクエストⅢ』のラスボス)を倒していなかったな」と、クリアしていないゲームのことが浮かび、自殺を踏みとどまりました。
ゲームをしていると、自分はダメだという気持ちがなくなり、勇者になれる気持ちがありましたね。この状態を「ゲーム依存だ」といえばそうなのかもしれないけれど、僕にとってゲームは、この世との未練をつなぐ「命綱」でした。もしあの時、母親にゲームを取り上げられていたら、僕は死んでいたと思います。
不登校から再登校へ。子どもの「元気」をためる重要性
ゲームを支えに不登校生活を送っていた増田さんですが、その後、再び登校するようになります。不登校から再登校に至るには、何が必要だったのでしょうか。
不登校友達と遊んで「元気を溜めた」

——再登校きっかけは何だったのでしょうか。
増田:自殺を踏みとどまった後は、『ドラゴンクエストⅢ』もクリアし、そのうちに死にたいという気持ちもわからなくなってきて、時間を持て余してしまったんです。とりあえず暇なので、学校の人と会わない時間を狙って近所のゲームセンターに行ってみたら、そこで別の中学校に進学した友達と会ったんです。偶然にも、その子も不登校だったので、うちでゲームしようと誘ったんですよ。 そのうちに不登校仲間が4人になったのですが、ゲームばかりではなく、だんだんと外で遊びたくなってきて…。不登校仲間にサバイバルゲームが好きな子がいたので、みんなで外に出て、山で遊んだりしていましたね。
このように仲間と過ごしているうちに中学校三年生の夏休みが終わり、理由は全く分からないんですが、突然「明日から学校に行こうかな」という気持ちになったんです。なので、翌朝、学校に連絡も入れずに登校しました。
——中学校二年生の春から、中学校三年生の二学期まで不登校でしたから、一年以上ぶりの登校ですよね。
増田:はい。なんの前触れもなく登校した僕の姿を見て、クラスメートもザワザワしていましたし、先生もどうしたらいいか分からない様子でした。でも、僕はそんなこと気にも留めず「先生、僕の席どこですか?」って話しかけました。僕自身、「高校に進学したい、今から勉強するだけだ」という気持ちになり、すっかり切り替わっていました。
思い切り遊んで「元気が溜まった」ことが良かったのだと思います。現在、僕は不登校の子どもを支援していますが、僕のように「突然学校に行けるようになるケース」は、よく見ますよ。
不登校の子どもにとって必要なのは、不足しているエネルギーを安心して溜めることができる環境だと考えます。無理に学校に行かせようとしないで、ゲームなども含めて子どもが好きなことを通して心を回復させる時間を与えることが、結果的に再登校につながることもあります。
学校に行けない子どもの姿に、不安な気持ちを抱える親御さんもいらっしゃるかと思いますが、こんな方法もあるんだと参考にしてみてください。
不登校の理由、再登校の理由が「わからない」になるのはなぜ?
——学校に行けなくなった理由、そしてまた行けるようになった理由も、当時の増田さんにしてみれば「よくわからない」という状況だったのですね。
増田:はい。僕のように不登校の理由が分からなかったり、言語化できない子どもはとても多いんです。僕自身も、こうやって不登校のことを言語化して、話せるようになってきたのは、実はつい最近のことなんです。大人になるまでに、さまざまな経験や知識が身についたということと、特に精神医療の勉強や不登校支援の活動があって、何十年も経て、ようやく言語化して話せるようになった感じです。
特に男の子は、女の子よりも自分の思いを言葉にするのが苦手だったりします。中学生の男子に「なんで学校に行けないのか?」と聞いても、「めんどくさい」「わからない」「うざい」としか、当人は言えないんですよね。でも、その背景には言葉にできない複雑な思いや、モヤモヤした感情がたくさんあります。
子どもの力になってあげたいと思う親御さんの気持ちもわかるのですが、学校に行けない理由の背景に、例えばいじめなどのトラウマがあると、「なぜ?」「どうして?」とほじくり返されることで、その嫌な記憶がフラシュバックしてしまいます。そうなると「なんで学校いけないの?」という親の問いかけに、「うるせえ!」と、感情の爆発でしか返せなくなるんですよね。 親が不登校の原因を特定しようとする行為は、逆に子どもの心を閉ざしてしまうことになりかねません。特に、男子の場合は、その感情の爆発が暴力につながってしまうケースもあります。
ゲーム依存と不登校の関係とは?
不登校だった中学生の増田さんにとって「命綱」であり、同時期に不登校になっていた友達と繋がるきっかけにもなったゲーム。一方で「ゲーム依存で学校に行けない」という声も少なくありません。ゲーム依存と不登校の関係について伺いました。
「ゲーム依存」は不登校の根本原因なのか?他に原因があるのか?

——増田さんは、ゲーム依存と不登校の関係をどのように考えられていますか?
増田:不登校の根本原因がゲーム依存か、そうでないかの見極めが大切です。
ゲーム依存が不登校の根本原因であれば、ゲームを制限する方法は有効かもしれません。しかし、ゲーム依存以外の原因で不登校になっている場合、真の原因が背景にあり、トラウマ、起立性障害、うつ、適応障害などの問題が潜んでいることもあります。この場合、ゲームを取り上げたところで、今度はゲーム以外のものに依存してしまうでしょう。
このような状況の子どもからゲーム取り上げると、場合によっては、リストカットなどの自傷行為に走るケースもあります。ゲームをしている時は「泣く、笑う、感動する」など、心が動きますから「生きている感覚」があるんです。そんな中でゲームを取り上げてしまうと、生きている感覚を求める手段として、痛みを感じる自傷行為に走ってしまうんです。自ら体を傷つけるお子さんの姿を見て、「ゲームに依存していた方がましだった」という事態にもなりかねません。
対処すべきは「ゲーム依存」ではなく、「生きづらさ」というケースも
増田:僕の不登校もそうでしたが、10代の不登校の子どもたちを見ていると「不登校の原因はゲーム依存以外」のケースの方が多いかなという印象を受けます。僕の場合は、学校でいじめられる、勉強ができなくなる、先生の怒鳴り声が怖いというような状況です。どういうことかというと、うまく環境になじめない、「生きづらさ」なんですよね。
まず、子どもは大人と違って、自分がいる環境から逃げることができません。大人なら職場が嫌なら有給休暇を取ってリフレッシュしたり、それでも嫌なら転職したりすればいい話ですし、家庭が嫌なら家を出て一人暮らしをすることもできます。ですが、子どもは学校や家庭から逃げられません。つらい家庭や学校のことを忘れ、「楽しい」「面白い」という心を動かせるゲームにはまる、というのは「嫌なことから逃げる」ための行動であり、ある意味で「健康的」とも言えるかもしれません。
不登校の子どもとの向き合い方。親がゲームの約束を作る時の心構え
不登校は子ども本人も不安でしょうが、親の不安も大きいものです。親はどのような心持ちでいればいいでしょうか?また、親子でゲームの約束をどのように作ればいいのでしょうか。
不登校の子どもを持つ親が「やりがち」な失敗とは?
——親は不登校の子どもと、どのように関わっていけばいいのでしょうか。
増田:子どもが不登校になると、「学校に行かせないといけない!」と行動して、初期対応に失敗してしまう親御さんが多いんです。「逃げることができない」という状況が、子どもにトラウマを生んでしまうこともあります。
親御さんも配偶者や友人から「会社に行くことができない」と打ち明けられたら「休め」と言うはずです。子どもが休みたいと言ったときも、そう言えるといいですね。不登校の子どもにとって、「休む」という選択肢を親が与えることで、子どもは心理的な安全性を得ることができますから。
不登校の子どもと親子でゲームの約束をどう作ればいいのか?
——親子でゲームの約束を作ることについてはどう考えていますか。
増田:親子でゲームの約束を作るのはいいことだと思います。ただ、子どもの年齢によるところも大きいですね。お子さんが中学生くらいになれば、押し付けられた約束では、まず守らないでしょう。本人が作る約束を親が手助けするくらいがいいですね。
親に隠れてスマホやゲームをすることが一番まずいですから、まずは、何でも気軽に相談できる親子関係を作るのを第一目標にしてください。不登校の根本原因でもある「生きづらさ」の話しができて、信頼関係が築けたその次に「約束」があると思います。
お約束メイカーを使うときも、同様です。まずは親子の信頼関係。その次に約束作りです。お約束メイカーはゲーム形式にもなっていて、ゲーム好きな子には話のきっかけにもなるかもしれませんので、活用するといいと思います。
- POINTまとめ
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- 不登校の理由を「説明できない」子どものモヤモヤに寄り添いたい
- 「ゲーム依存」が不登校の原因なのか、「生きづらさ」が原因なのか
- つらかったら、まずは「休もう」と伝えたい
インタビュアー/ライター
石徹白 未亜- いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂







