親子でスマホ・ゲームお約束メーカー
インタビュー
2023年2月15日

不登校を体験した精神保健福祉士に聞く、親子とゲームの付き合い方

わが子が不登校になってしまった!なんで?学業不振?学校?家庭?いじめ?本人の性格?なぜなの?理由を教えて――!

お子さんに聞いても、わからんかもしれんゾ……

もくじ
増田貴久さんプロフィール増田貴久さんプロフィール
公認心理師・精神保健福祉士・ASK認定依存症予防教育アドバイザー 中学時代に不登校やゲーム依存を経験。大学卒業後にゲーム会社に就職。
その後、依存症専門治療機関にて依存症治療プログラム開発や個別カウンセリング、依存症家族教室開催、アメリカでの依存症研修などを経験。
現在はフリーランスとして、ASK依存症アドバイザー研修の講師や、ゲーム依存・不登校に関する家族支援講座、個別相談支援などを実施している。

不登校の原因は、ゲーム依存?

子どもが学校に行かずにゲームばかりしている――親としてはとても不安ですよね。今回はご自身もゲームが好きで、中学生の時に不登校を経験し、現在は精神保健福祉士として不登校の子どもを支援されている増田貴久さんに、不登校の原因や改善方法、不登校の子どもとゲームの付き合い方、子どもにしてはいけない事などを伺いました。

不登校になったきっかけと、当時の過ごし方

増田さんが不登校になったきっかけと、不登校時代ゲームがどんな存在だったのか伺いました。

なぜ不登校になったのか、当時の自分には分からなかった

――不登校のきっかけはどのようなことでしたか?

増田:中学二年の春から学校に行けなくなったのですが、自分でもなんで玄関から一歩が踏み出せないのか分からなかったんです。そもそも学校に行きたいのか、行きたくないのかも分からない。ただただ体が動きませんでした。
今振り返ると、小学校一年生からいじめられていたのですが、自分にとってはそれが当たり前だったので、なんとなくそれでやっていました。また、勉強が得意で楽しかったんですね。
ただ中学生になりいじめがエスカレートしてみんなの前でパンツを脱がされたり、さらには成績も落ちてきて「勉強ができる」という自分の土台も崩れてしまいました。積み重なったストレスで、心や意識よりも、体が拒否反応を起こしたのではないかと、今は思っています。

――ひどいいじめであり「このいじめが原因で学校に行けない」と思いそうですが、当時の増田さんにしてみれば「わからない」という状況だったのでしょうか。

増田:そうですね。精神医学的には「乖離(かいり)」と呼ばれていますが、いじめられている自分をどこかに飛ばしていたというか、遠くから自分を見ていたというか。ストレスにさらされ続け、いろいろ麻痺していたのかもしれません。
また、いじめ以外にも僕自身繊細なところもあり、自分が怒られていなくても先生が怒鳴る声であったり、近くの人が馬鹿にされているのがとても辛くて。相談してもどうせ受け取ってもらえないだろう、といった無力感も混ざって学校という空間に入れない状況でした。

不登校時代、ゲームが「命綱」だった

――不登校のころはどのように過ごしていましたか?

増田:元々ゲームが好きだったので最初の頃は家でゲームばかりしていましたね。「ドラゴンクエストⅢ」「FINAL FANTASYⅢ」など、やりこみ系のゲームをよくしていました。
母親はシングルマザーだったのですが、僕の不登校については何も言いませんでした。「学校に行け」「勉強しろ」「ゲームばかりするな」もなかったです。「なんとかなるよ」と太っ腹でしたね。
ただ僕自身はとても不安でした。不登校の子どもが24万人いる今とは違い、当時学年で学校に行けないのは僕だけでした。何もしないで家にいると「誰しもが当たり前に行けるはずの学校に行けない僕は終わった」という気持ちに苛まれましたね。
何度か自殺を考えたこともあります。当時マンションの9階に住んでいて、下をのぞき込んで、何かやり残したことはないかと思ったときに「ゾーマ(『ドラゴンクエストⅢ』のラスボス)を倒していなかったな」と。
ゲームをしていると、自分はダメだという気持ちがなくなる、勇者になれる気持ちがありましたね。この状態を「ゲーム依存だ」といえばそうなのかもしれないけれど、私にとってゲームは命綱でした。取り上げられていたら死んでいたと思います。

不登校時代、ゲームが「命綱」だった

再び学校に行くようになったきっかけ

ゲームを支えに不登校生活を送っていた増田さんですが、その後、再び登校するようになります。きっかけは何だったのでしょうか。

不登校友達と遊んで「元気を溜めた」

――再登校きっかけは何だったのでしょうか。

増田:『ドラゴンクエストⅢ』もクリアし、死にたいという気持ちもわからなくなってきて、暇になり、学校の人と会わない時間を狙って近所のゲームセンターに行ったんですが、そこで別の中学校に進学した友達に会ったんです。その子も不登校だったので、うちでゲームしようと誘って。 そのうち不登校仲間が4人になったのですが、そうなると外で遊びたくなってきて。サバイバルゲームが好きな子がいたので山で遊んだりしていましたね。
そうしているうちに中学三年の夏休みが終わり、これも何で行こうと思ったか分からないんですが、「明日から学校に行こうかな」という気持ちになって、突然、連絡も入れずに翌朝登校しました。

――一年以上ぶりの登校ですよね。

増田:はい。教室で周りもザワザワしていましたし、先生もどうしたらいいか分からない様子でしたが「先生、僕の席どこですか?」って。僕自身、「高校に進学したい、今から勉強するだけだ」と気持ちはすっかり切り替わっていました。
思い切り遊んで「元気が溜まった」のが良かったと思います。現在僕は不登校の子どもを支援していますが、「突然行けるケース」はよく見ますよ。

不登校友達と遊んで「元気を溜めた」

不登校の理由、再登校の理由が「わからない」になるのはなぜ?

――学校に行けなくなった理由、そしてまた行けるようになった理由も、当時の増田さんにしてみれば「よくわからない」という状況だったのですね。

増田:はい。そして、僕のように当人にも理由が分からなかったり、言語化できなかったりする子どもは多いです。僕自身も、このことを話せるようになってきたのはつい最近です。大人になったというのと、精神医療の勉強や不登校支援の活動があって、ようやく言葉にできるようになった感じです。
特に男の子は、女の子より自分の思いを言葉にするのが苦手だったりします。中学生の男子に「なんで学校に行けないのか?」と聞いても「めんどくさい」「わからない」「うざい」としか当人は言えないんですね。ただ、その背景には言葉にできない複雑な思い、モヤモヤがあります。
力になってあげたいと思う親御さんの気持ちもわかるのですが、学校に行けない理由の背景にトラウマがあると、「なぜ?」「どうして?」とほじくり返されることで、その嫌な記憶がフラシュバックしてしまいます。そうなると「なんで学校いけないの?」に「うるせえ!」としか返せないんですよね。 男子の場合、それが暴力につながってしまうケースもあります。

ゲーム依存と不登校の関係とは?

増田さんにとっては命綱であり、不登校をしていた友達と繋がるきっかけでもあったゲーム。一方で「ゲーム依存で学校に行けない」という声も少なくありません。ゲーム依存と不登校の関係について伺いました。

「ゲーム依存」は不登校の根本原因?他に原因がある?

――増田さんはゲーム依存と不登校の関係をどのように考えられていますか?

増田:不登校の根本原因がゲーム依存か、そうでないかの見極めが大切です。
ゲーム依存が不登校の根本原因であれば、ゲームを制限する方法は有効ですが、ゲーム依存以外の原因で不登校になっている場合、真の原因の背景にはトラウマ、起立性障害、うつ、適応障害などの問題が潜んでいることもあります。この場合、ゲームを取り上げたところで、今度はほかのものに依存してしまうでしょう。
そんな子どもからゲーム取り上げると、場合によっては、リストカットに走るケースもあります。ゲームしている時は「泣く、笑う、感動する」など、心が動きますから生きている感覚がある。そんな中でゲームを取り上げると、生きている感覚を求めて、痛みを感じるリストカットに走ってしまうんです。「ゲームに依存していた方がましだった」という事態にもなりかねません。

増田貴久さんインタビュー風景

対処すべきは「ゲーム依存」ではなく「生きづらさ」というケースも

増田:僕の不登校もそうでしたが、10代の不登校の子どもたちを見ていると「不登校の原因はゲーム依存以外」のケースの方が多いかなという印象を受けます。つまり「生きづらさ」なんですよね。
まず、子どもは大人と違って逃げられませんから。大人なら職場が嫌なら有給休暇を取ってリフレッシュしたり、それでも嫌なら転職したりすればいい話ですし、家庭が嫌なら家を出て一人暮らしをすることもできます。ですが、子どもは学校や家庭から逃げられません。つらい家庭や学校のことを忘れ、心を動かせるゲームにはまる、というのはある意味で「健康的」とも言えるかもしれません。

不登校の子どもに対する親の気持ちのありかたとは

不登校は子ども本人も不安でしょうが、親の不安も大きいものです。親はどのような心持ちでいればいいでしょうか?また、親子でゲームの約束をどのように作ればいいのでしょうか。

不登校の子どもを持つ親が「やりがち」な失敗とは?

――親は不登校の子どもとどのように関わっていけばいいのでしょうか。

増田:「子どもを学校に行かせないといけない」と、初期対応に失敗している親御さんが多いです。「逃げることができない」という状況がトラウマを生んでしまいます。親御さんも配偶者や友人から「会社に行くことができない」と打ち明けられたら「休め」と言うはずです。子どもが休みたいと言ったときも、そう言えるといいですね。

――親子でゲームの利用について約束を作る事についてはいかがでしょうか。

増田:いいことだと思います。ただ、年齢によるところも大きいですね。お子さんが中学生くらいになれば、押し付けられた約束ではまず守らないでしょう。本人が作る約束を親が手助けするくらいがいいですね。
親に隠れてスマホやゲームをするのが状況として一番まずいですから、気軽に相談できる親子関係を作るのが第一目標、その次に約束があると思います。お約束メイカーも、小学生でゲーム機、スマホなどの端末の買い与えるときに利用方法の約束を一緒に作る場面において用いるといいと思います。

POINTまとめ
  • 約束を守らないから電源ブチっ、では、お子さんもブチ切れる?
  • 親だって我慢しなくていい、コミュニケーションに工夫しよう
  • 子どもが好きなゲームには、子どもの興味関心のヒントがいっぱい!

POINTを意識して約束を作ってみる

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石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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