「ゲームは子どもの成長にとって悪い影響があるって言われるけど本当かな?」
「そんな事はないぞい! メリットもあるのじゃ!」
- もくじ
- 山中智省さんプロフィール
- 目白大学人間学部子ども学科専任講師。専門は日本近現代文学、サブカルチャー研究。近年は、日本の若年層向けエンターテインメント小説の一つである「ライトノベル」に着目し、その誕生・発展過程を探る研究に取り組んでいる。著書に『ライトノベル史入門 『ドラゴンマガジン』創刊物語―狼煙を上げた先駆者たち』(勉誠出版)、共編著に『小説の生存戦略―ライトノベル・メディア・ジェンダー』(青弓社)、共著に『メディア・コンテンツ・スタディーズ―分析・考察・創造のための方法論』(ナカニシヤ出版)などがある。
ゲームが子どもに与える悪影響はよく耳にするけど……
ゲームを禁止にしたら、子どもが心を閉ざしてしまい、コミュニケーションが上手くいかなくなったというご家庭も少なくないのでは。子どもたちにとってゲームがなくてはならない存在となった今、ゲームの悪影響にだけに耳を傾けるのを止めて、メリットについても知る必要があるのではないでしょうか? ゲームを使って長所を伸ばすサポートってできないのか。メディアとサブカルチャーを専門とする目白大学人間学部子ども学科専任講師の山中智省さんに訊きました。
子どもがゲームをする事で成長に与えるメリットって何?
ゲームは子どもの想像力を高めてくれる
――ゲームが子どもの成長に与えるメリットはどんなものでしょうか。
山中 ロールプレイングゲーム(以下RPG)のような物語性の強いゲームは、子どもの想像力を高めてくれます。マンガやライトノベル、アニメなどにも同様の効果はありますが、ゲームの利点は、子どもがキャラクターを操作して物語に介入できるところにあります。物語の中でキャラクターにどんな行動をさせ、どんな結果になるかを想像する要素や、自分とキャラクターを重ね合わせて得られる没入感はゲームでしか得られないメリットですね。
禁止するよりもゲームのメリットを活かせるような約束作りが大切
――“没入感”に関しては、批判の対象になる事もありますよね。
山中 「どうすればその世界に入り込んでもらえるか」を追求してゲームは作られているので、子どもが没入するのは当たり前です。その上、操作に対して反応がすぐに返ってくるので、受動的に受け取るマンガやアニメと比べたら、確かに刺激の強いモノと言えるでしょう。
だからこそ、ゲームを長時間続けてしまったり、より強い刺激を求めて高額課金してしまったりといったトラブルにつながりやすい面もあります。
しかし、ゲームは今や子どもたちのコミュニケーションツールとして、なくてはならないものです。単純に禁止ではなく、親子で話し合って約束を作り、むしろゲームが持つ「子どもの想像力を高めてくれる」というメリットを最大限に活かす事こそ大切ではないでしょうか。
ゲームのジャンルによって伸ばせる能力が違う!
主人公を操作して、物語の世界に介入できるRPGを例にメリットを語ってくださった山中さん。他のジャンルについても伺いました。
ゲームで学ぶ習慣を身につけられる
――RPG以外のジャンルのメリットについてはいかがでしょうか。
山中 歴史を題材にしたゲームは歴史に興味を持つきっかけになりますよね。最近だと、文豪や刀剣をキャラクター化したゲームなどもありますが、そういったものも教養の入り口になっています。子どもに「勉強しなさい!」と強要しても、拒絶するだけだと思うのですが、遊んでいるゲームを切り口に、「このキャラクターについて一緒に調べてみようよ」と話しかけてあげる事で、「学ぶ習慣」を身に付けさせられます。
オンラインゲームは協調性を養ってくれる
――他に教育に使えるようなゲームの要素はありますか?
山中 例えば、ブロックを使って道具や建物を作る『Minecraft』 (マインクラフト)は教育現場でも活用されています。オンラインで繋がった共通の世界で、他の子どもたちと一緒にモノを作ったり、冒険したりする事によって協調性を養えます。
――『Minecraft』のようなオンラインゲームは子どもたちの間で人気がありますね。
山中 そうですね。親御さんの中には、オンラインよりも直接対面してのコミュニケーションを重視されていて、オンラインゲームを良くないものとして捉える方もいるかもしれません。もちろん、対面も大事ですが、SNSがこれだけ普及している現代では、ネット上でのコミュニケーション能力も社会で生きていく上で、欠かせないスキルになりつつあります。ましてやコロナ禍の今、オンラインゲームは子どもたちにとって、重要なコミュニケーションツールであると同時に、コミュニケーション能力を身につける「学びの場」にもなっています。対面と同様にオンラインでのコミュニケーションも重要なものと理解して、子どもたちには双方の機会を与えていただければと思います。
よく言われているデメリット・悪影響に対してはどうすればいい?
ゲームの様々なメリットについて聞けましたが、それでも依存をはじめとするデメリットについての不安は残ります。そんな不安に対して、親は何をすれば良いのかアドバイスをいただきました。
ゲームと横並びになる娯楽の提供が大切
――依存などのデメリットに対して、親はどう対処すれば良いのでしょうか?
山中 まずはゲームへの理解を深める事です。先ほど話したように、ゲームにはメリットがあります。漠然とした不安を抱えてしまうのは、ゲームを「なんだかよくわからないもの」として捉えているからでしょう。絵本や子ども向けアニメの場合、子どもにどんなものを見せるか、親がしっかり吟味できると思いますが、ゲームに関しては、詳しくないとなかなかそうもいきませんよね。ゲームに詳しくない親御さんは、ご自身の印象や経験則で、内容を吟味せずにゲームを評価し、いきなり否定してしまいがちです。一方的に否定されると頑なになり、親とのコミュニケーションを拒絶するようになります。
――一方的に禁止した事で、子どもとのコミュニケーションが上手く行かなくなってしまったご家庭もあるようです。
山中 子どもがなぜゲームばかりしてしまうのか、なぜそのゲームを遊んでいるのか、子どもの素直な言い分を聞いてあげてください。子どもの言い分に納得できない部分もあると思いますが、まずは否定しない。それから「どうしてそう思うの?」、「こうした方が良いんじゃない?」というように、丁寧なコミュニケーションを図ってください。その上で、ゲームへの依存が強い子どもには、別の楽しみを体験できる機会を少しずつでいいので与えてあげる事も大切です。ゲームの楽しさに理解を示してあげた上で、本を買ってあげても良いかもしれませんし、アニメを見せてあげても良いでしょうし、どこかに一緒に出かけても良いでしょう。クラブ活動や習い事も良いかもしれません。横並びで楽しめる様々な娯楽を提供する事で、ゲームにだけ依存してしまうという状態からは脱してくれるのではないでしょうか。
ゲームが子どもの成長に与えるメリットを最大限活かすには
ゲームに関する会話が子どもの考える力や理解力を養う手助けに
――ゲームが子どもに与えるメリットを活かすために、親ができる事を教えてください。
山中 ゲームに抵抗がない親御さんだったら、子どもと一緒に遊んであげるのが一番です。一緒に遊ぶのが難しい場合は、ゲームについて子どもに聞いてみるのも良いでしょう。子どもとゲームについて話す中で「どんなところが楽しいの?」、「どうしてそう思ったの?」などと聞いてあげると、子どもがあらためてゲームのストーリーだったり、自分がゲームに対して抱いた感情だったりを考えるきっかけになります。ゲームについて話す事は、子どもの考える力や理解力を養う手助けにもなると思います。
――若い親御さんの中には、ゲームが好きな方も多いと思いますが、親が好きなゲームを子どもに勧める事についてはいかがでしょうか?
山中 子どもは基本的に自分の手の届く範囲でしか世界を知りません。親が自分の経験を元に、好きなゲームを勧めて、子どもの世界を広げてあげるのはとても良い事です。ただ、親の価値観を子どもに押しつけたり、対象年齢が合わないゲームを勧めるような事がないよう、気を遣う必要はあります。親にとっては素晴らしいゲームであっても、そのゲームが子どもにとってもそうであるとは限らないので、子どもの価値観や成長・発達の様子も大切にしてあげてください。
メリットを活かす親子の約束作り
最後に、子どものスマホ・ゲームのトラブル減少のため、ガンホーが公開している『親子でスマホとゲームのお約束メイカー』を山中さんに体験していただきました。
『お約束メイカー』は教育の現場を目指す学生にとっても貴重なツールです
山中 ゲームが持つメリットを活かすためにも、悪い影響をできるだけ少なくするためにも約束作りは大切です。『お約束メイカー』は、親子でコミュニケーションを図りつつ、約束を作る事ができるので、ぜひ多くの親御さんに活用して欲しいですね。
私の場合は、保育者志望の学生を指導する立場でもありますので、こういったツールがある事は非常にありがたいです。私のゼミにも子どもとゲームの関係を研究している学生が在籍していますので、早速、『お約束メイカー』を紹介させていだたきました。
こういったツールや情報サイトを元に、教育の現場を目指す学生が子どもとゲームの関係について考える機会や知る機会を得られる事はありがたいですし、今後も講義で活用したいと思いました。
- POINTまとめ
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- ゲームは子どもの想像力を高めてくれる
- 禁止するよりもメリットを活かす約束作りが大事
- ゲームで学ぶ習慣が身につく
- オンラインゲームは協調性を養ってくれる
- 子どもにゲーム以外の娯楽も提供してあげよう
- ゲームに関する会話が考える力を養う手助けに
- インタビュアー/ライター
斎藤 ゆうすけ - さいとう ゆうすけ。ライター・放送作家。大学在学中よりゲームメディアで記事の執筆を行い、現在はテレビやラジオの放送作家として活動。バンタンゲームアカデミーおよび東放学園映画専門学校にて、講師としてゲーム関連の講義も担当しており、バンタンゲームアカデミー高等部eスポーツ専攻ではプロゲーマーを目指す高校生向けにネットリテラシーの講義も行う。活動に関する告知はTwitter『斎藤ゆうすけ(アニゲウォッチャー)』にて発信中。