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インタビュー
2026年09月08日

ゲーム好きこそ外で遊べ?スポーツ科学が解明した、eスポーツと「運動」の相乗効果

eスポーツって、体をあまり動かしてないけど、これってスポーツなの?

「スポーツとは何か」を考えてみると、新しい発見があるゾイ!

もくじ
松井崇さん松井崇さん

筑波大学体育系准教授。博士(体育科学)。運動生化学・スポーツ神経生物学・eスポーツ科学を専門とし、運動・武道・eスポーツにおける脳疲労、パフォーマンス、絆の生理機構を研究。全日本柔道連盟科学研究部基礎研究部門長、日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学)も務める。筑波大学松井研究室ホームページ

子どもが外で遊ばずゲームばかり。「運動神経が悪くなるのでは?」「体力不足で不健康になるのでは?」そんな不安を抱える保護者の方も多いのではないでしょうか。しかし今、eスポーツが「高度な脳のスポーツ」として注目されています。外部の情報を瞬時に処理し、効率良く対応する認知能力は、まさにアスリートそのもの。ゲームを単なる娯楽で終わらせず、子どもの能力を育むために、スポーツ科学から見たゲームの可能性と上手な付き合い方について筑波大学体育系准教授・松井崇さんに伺いました。

eスポーツは、スポーツなのか?

まずは、多くの方が気になっているであろう疑問を、さっそく伺ってみました。

スポーツとは何か~スポーツを形作る4つの要素~

スポーツとは何か~スポーツを形作る4つの要素~

松井:「eスポーツはスポーツなのか」というのは、非常に難しい問いなのですが、そもそも「スポーツとは何か」という議論については、1980年代のスポーツ哲学において、以下の4つの要素が重なり合うものと捉える考え方があります。
① 身体性(体を使う)
② 競争性(競い合う)
③ 組織性(ルールに則る)
④ 遊戯性(楽しむ)

例えばスポーツと「ケンカ」を比較してみましょう。ケンカも体を使いますし(身体性)、相手と競い合ってはいますが(競争性)、そこにはルール(組織性)がありません。だから、やっていて楽しい(遊戯性)ものでもありませんよね。
決められたルールのもとで、健全に、競い合うことを楽しむからこそ、スポーツとして成立するのです。

——4つの要素が全て満たされることで、スポーツと定義されるのですね。

eスポーツには「身体性」がないという誤解

——そうなると、eスポーツは主に座って行っていますので、スポーツの4要素の中の「身体性」が欠けている、ということになるのでしょうか?

松井:私は「半分は、はい。さらに半分は、いいえ」と答えています。eスポーツでも指先は緻密に動いていますし、脳はフル回転していますから、身体性が完全に欠けているわけではありません。
「スポーツ」と聞くと、目に良く見える「筋肉がダイナミックに躍動する」シーンをイメージしがちですが、スポーツで起きている身体的な変化はそれだけではありません。目に見えない部分では、プレイ中に脳が活性化し、心拍数が上がり、様々なホルモンが分泌されています。これはフィジカルスポーツでもeスポーツでも共通して起きる身体の変化です。

——たしかに、「脳」も身体の一部ですもんね。

松井:はい。ただ一つ、フィジカルなスポーツとeスポーツで決定的に違うのは、筋肉を大きく動かす「エクササイズ性」がないという点です。そのため、私はeスポーツのことを「エクササイズ・ノックアウト(エクササイズ性が疎外された)・スポーツ」と呼んでいます。エクササイズ的なダイナミックな動きは、eスポーツの場合、画面の中のアバターが行っている形です。

スポーツ、eスポーツと脳との関係~スポーツはゲームにも勉強にも効く~

エクササイズ性以外は共通点も多いスポーツとeスポーツですが、脳の使い方や影響にも共通点はあるのか、詳しく伺いました。

ゲームをプレイすると、ゲームに使う脳の機能が強化される

——eスポーツ選手とスポーツ選手で、脳の使い方に共通点はあるのでしょうか。

松井:こちらはまだ科学的にはっきりとした結論は出ておらず、eスポーツ、スポーツでそれぞれ別に研究が進んでいる段階ですが、興味深い知見はいくつかあります。
まず、近年のeスポーツとしての研究はまだそこまで多くないのですが、テレビゲームに関する研究は以前から行われてきました。2003年に科学誌『Nature』で発表された研究では、18~23歳の普段ゲームをしない人が、アクションゲームを1日1時間、10日間連続で行ったところ、視覚的注意機能が改善しました。ゲームで繰り返し使う注意機能などが鍛えられる可能性を示した最初の研究です。
子どもを対象とした研究もあります。2009年の研究では、7~17歳の普段からアクションゲームをしている人は、そうでない人よりも視覚的注意機能が良いことが報告されています。さらに、2022年には、通常の読みの発達を示す子ども151人が、アクションゲームと認知トレーニングを組み合わせた専用ゲームを1回1時間、週2回、6週間(計12時間)行うと、注意制御・計画・読字成績が改善することが報告されています。
このように、「ゲームで使う特定の脳の部位や機能」が活性化したことが確認されており、適度なプレイであれば、脳の機能が高まることは科学的にも知られています。もちろん「やりすぎ」は逆効果ですが。

運動をすると脳全体が活性化する

運動をすると脳全体が活性化する

松井:次にフィジカルなスポーツを見てみると、運動習慣があり体力の高いスポーツ選手は、そうでない人と比べ、運動機能だけでなく、認知機能に関係する脳部位の体積が大きいという研究結果があります。体力が高い人ほど心肺機能が高まり、筋肉が大きくなるのと同じように、脳も体積が増えていたり、脳の中の神経の数が増えたり、神経同士のつながりが良くなっていたりするのです。
運動は、単にその運動をするための脳の部位だけでなく、幅広い認知機能を含めた脳の健康を全般的に底上げしてくれることが分かっています。

——ゲームは「ゲームで使う脳機能」を、運動は「より幅広い脳機能」を向上させるのですね。

「土台」としての運動が、eスポーツを強くする

松井:よって、eスポーツで強くなるには、意外かもしれませんが「運動」が効果的なんです。
フィジカルスポーツには、必ず「基礎練習」がありますよね。走ったり、筋トレをしたりといった基礎練習は様々なスポーツに共通しており、その上にそれぞれのスポーツ競技固有の体力やスキルを尖らせていく作業があります。
eスポーツにおいても、運動をして脳の基礎的な「土台」を整えておくと、集中力や健康を保ちながら、eスポーツのスキルを磨く助けになると考えられます。

「eスポーツが強くなりたいからゲームだけする」は遠回り

「eスポーツが強くなりたいからゲームだけする」は遠回り

松井:実際に、世界中の様々なeスポーツプレイヤーを調査した研究では、上位10%に入るトップランカーは、それ以下のプレイヤーに比べて日々の身体活動量(運動量)が多いというデータもあります。eスポーツが上手くなりたいのなら、「ゲームだけ」をやり続けるのは実は遠回りなんです。
さらに、脳の土台を整えておけば、eスポーツだけでなく、勉強など、他の活動でも成果が出てきます。

——人間の生活は「考え、行動すること」の連続ですから、考える土台である脳の能力が高まれば、よりよい行動につながりそうですね。

松井:はい。軽くてもかまいませんので、運動をライフスタイルに取り入れて、脳のコンディションを整えてください。その結果として、ゲームも勉強も、より効率的に取り組みやすくなると思います。

ゲームと「没入」の光と影

ゲームと脳の関係についてお話を聞いてきましたが、ゲームに熱中している時の「没入感」は他に類を見ないものです。なぜゲームはここまで人を「没入」「熱中」させるのでしょうか?

その没入は「自分の意志か」「ゲームの仕組みか」

松井:ゲームと没入についてですが、「没入できること」自体は、非常に素晴らしいことだと思います。
ただし、注意が必要なのは、その没入が「自分の意志」によるものか、それとも「ゲームの仕組み」によってさせられているものか、という点です。もし「ゲームに遊ばされている状態」になっているのであれば、周囲の保護者がそれを見分けて、サポートしてあげる必要があります。

ゲームはスポーツよりも疲れを感じにくいから、没入が止まらない

——ではなぜ、これほどゲームには没入してしまうのでしょうか。

松井:大きな理由の一つは、ゲームは疲れを感じにくいからです。
走るなどのフィジカルな運動を続けていると、身体が疲れてきて「もう動けない」というサインを出しますが、これがやりすぎを防ぐ防御機構として働いているんです。ところが、ゲームは身体をほとんど動かさない(エクササイズ性が低い)ため、このストッパーがかかりにくいんです。
さらに、ゲームに没入している間、脳は高度な情報処理を続けているので実際には脳は疲労し、判断力などが低下するのですが、本人にその自覚が届きにくいんです。その仕組みはまだ十分には分かっていませんが、脳そのものが痛みを感じる仕組みを持っていないことにヒントがあるかもしれません。

——脳が疲労すると、どのような変化が出てくるのでしょうか。

松井:まずは、判断力や記憶力が低下し始めます。ですが、脳は疲れを自覚しにくいですから「まだできる!もっとやりたい!」と没入が続いてしまうんです。この「やめ時の分からなさ」による無為な長時間プレイは、心身に過度の負担をかけ、体調悪化を招きかねません。

——判断力や記憶力が低下した状態でゲームをしても、良い結果が出ずにイライラしてもう一回!となってしまっては悪循環ですよね。脳の疲れを自覚するための良い方法はあるのでしょうか?

松井:なかなか絶対的な方法はないのですが、今研究しているサインの一つに「指先の冷え」があります。脳だけを酷使していると、末端の血管が収縮し、指先が2〜4℃くらい冷たくなることがあります。
お子さんがゲームに熱中しすぎていて心配な時は、そっと手に触れてみてください。もし冷たくなっていれば、それは脳が疲れているサインかもしれません。また、触れ合うという物理的なコミュニケーションは、親子の絆を深め、子どもを「我に返らせる」きっかけにもなりえます。

脳活のための生活のポイント

ここからは、ゲームにもスポーツにも大きな影響を及ぼす脳の能力を上げるための、生活のポイントについて尋ねました。

食事は「朝のタンパク質」から!

食事は「朝のタンパク質」から!

——日々の生活の中で、脳のために、どのようなことに気を付ければよいでしょうか。

松井:食事面では「朝にタンパク質を摂る」ことがお勧めです。タンパク質というと筋肉のイメージが強いですが、実は脳にもいいんです。タンパク質は体内でアミノ酸に分解されますが、アミノ酸は、脳内で情報をやり取りするための「神経伝達物質」の材料になるんです。

——タンパク質の多いお肉やお魚をしっかり食べるのは夜になってしまい、朝はつい手軽なパンなどになってしまいがちなんですよね…。

松井:朝にタンパク質を取ると、午前中から精力的に脳を活動させることができますよ。卵や納豆をはじめ、手軽に済ませたいときにはプロテインドリンクを活用してもよいと思います。

運動は「おやつ運動」で大丈夫

松井:また、先ほどもお伝えしましたが、脳のためにも運動を続けてほしいですね。

——ゲーム好きの子どもの中には、運動が苦手だからゲームをしているというケースも少なくないかもしれません。

松井:「週5日、1回1時間」というようなストイックな運動でなくて大丈夫です。お勧めしているのは、「エクササイズスナック(おやつ運動)」という、おやつを食べるような感覚でできる手軽な運動です。例えば「腿上げ7秒+20秒休憩」を1セットとし、これを3セット行うというもので、これなら1〜2分程度で終わります。
このような、ちょっとした「おやつ運動」をゲームや勉強の合間にパパッと取り入れるだけで、脳の活動の後押しになります。日々の小さな「おやつ運動」の積み重ねで、高い脳のパフォーマンスと心身の健康を両立できたら理想的ですね。

——「ちょっとスクワットしてみる」なども「おやつ運動」ですし、これなら今からでも取り入れられそうですね!

ゲームの合間には「強炭酸水」もオススメ!

ゲームの合間には「強炭酸水」もオススメ!

松井:その他に、ゲームの合間に無糖の強炭酸水を飲むこともお勧めです。疲れたなと感じたとき、甘いコーヒーやエナジードリンクを手に取る方が多いと思います。確かにコーヒーやエナジードリンクに含まれるカフェインや砂糖は、即効性があり、疲労感が和らいだり脳の機能が高まったりします。ですが、毎日そればかり飲んでいると、だんだん効かなくなり、また砂糖を摂りすぎると、太ってしまう。長期的に見ると健康面も害してしまい、脳の機能にとってもマイナスなんです。

——糖分の摂りすぎは、生活習慣病なども心配ですよね…。

松井:そこで、筑波大学では、サッカーゲームのプレイ中に、真水を飲んだ場合と無糖の強炭酸水を飲んだ場合の疲労度の変化を研究したのですが、強炭酸水を飲んだ方が疲労感を抑えられたという結果が出ました。また、判断力の低下が抑えられ、プレイ中のファールの数が減ったんです。

——それは驚きですね。強炭酸水、ぜひ試してみたいと思います。

日々の生活で育てた脳の健全な土台は、何事にも役立つ

——ゲームと脳の関係についてお話をお伺いしてきましたが、子どものゲームについて心配されている保護者の方も少なくないかと思います。保護者の皆様へのアドバイスはありますでしょうか。

松井:そうですね。「ゲームをするとバカになる」といった過度な心配は、今の科学的知見からすれば、それほど恐れる必要はありません。
ですが、どんな素晴らしい活動にも、プラスとマイナスの両面があります。例えば、今のサッカーでは、ヘディングによる脳への影響を考えて、子どものうちは制限を設ける対策が取られています。ゲームも同じです。100%良いものも、100%悪いものもありません。
お子さんがゲームで負けて悔しがっている時は、「ゲームを制限する」というネガティブな関わり方というよりは、スポーツで負けた時と同じように、その真剣さをまず受け止めてあげてください。「何が悔しかったのか」「何が原因だったと思うか」「次はどうしてみたいか」と話すことが、ゲームでの試行錯誤を日常の学びにつなげるきっかけになります。ゲームの内容を詳しく分からなくても、真剣に話を聞く姿勢だけで、お子さんの反応は変わってくるかもしれません。
そのうえで、「もっと上手くなるために、朝ごはんにタンパク質を摂ろう」「集中力を保つために、おやつ運動をしよう」といった、ポジティブなコンディショニングの視点を持って接してあげられるといいなと思います。
そうして日々の積み重ねでできた健全な脳の土台は、ゲームに限らず、勉強など多方面に役立ちます。お子さんの可能性を最大限に引き出していけることを願っています。

POINTまとめ
  • 運動は健全な脳をつくる大切な土台。ゲームにも勉強にも役立つ
  • 脳は疲れを感じにくい。指先の冷えもヒントに、疲れていないか確認を
  • 「おやつ運動」と「朝のタンパク質」で脳の調子を整えよう

POINTを意識して約束を作ってみる

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石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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