親子でスマホ・ゲームお約束メイカー
インタビュー
2025年12月08日

【親子で知る】ゲームで脳が興奮!子どもの睡眠不足を招くNG行動

子どもが夜遅くまで起きているし、朝は起きないし……、なんとかしたいわ!

子どもの睡眠に気をもむ前に、大切なのは親自身の睡眠改善からジャ!

もくじ
渥美正彦さん渥美正彦さん

上島医院院長、睡眠専門医、精神科専門医。大阪市立大学医学部卒業。精神科・神経内科・睡眠医療の診療・研究を経て2006年上島医院に睡眠障害診療部門「南大阪睡眠医療センター」を設立。全国の睡眠に悩む人々の診療にあたる。YouTubeチャンネル「睡眠専門医 渥美正彦」は登録者16万人超。11月28日新刊「ぐっすり! 1万人を治療した専門医が教える最強の睡眠メソッド」発売予定。

お子さんがなかなか寝ない、朝起きられないなど、「子どもの睡眠」で悩んでいる親御さんも多いのではないでしょうか。今回は、ゲームやスマホと上手に付き合いながら、最高のパフォーマンスを発揮するための睡眠について、睡眠専門医の渥美正彦先生にお話を伺います。睡眠不足が体や心に及ぼす影響や、理想的な睡眠時間、良い睡眠をとるための望ましい生活習慣について解説していただきました。

体、脳、心に悪影響を及ぼす睡眠不足

人間が生きるために必要不可欠な「睡眠」。この睡眠が不足する「睡眠不足」がいかに生活の質を下げるかを、まずはしっかり理解していきましょう。

睡眠不足のとき、イライラするのは理由があった!

睡眠不足のとき、イライラするのは理由があった!

渥美:睡眠不足の影響は、体、脳、そして、心(感情、情緒)に出てきます。
脳には「扁桃体(へんとうたい)」と呼ばれる「危ない/怖い/腹が立つ」などの感情を作り出すと言われる器官があります。
これらの感情はネガティブな感情ですが、外敵に遭遇した時に、逃げたり戦ったりするために必要な感情であり、生物としては大切な感情なんです。ただ睡眠不足になると、この扁桃体が暴走し始めて、怖いものがないのに怖がったり、怒らなくていいことでイライラしたりすると言われています。

——寝不足の時はイライラしがちですが、理由があったのですね。

渥美:はい。ほかにも眠い時、体は頑張って起きようとします。そのため、体を活動モードにする「交感神経活動」が過剰になるので、血圧が上がったり、緊張が高まったりします。そうするとイライラなど気持ちだけでなく、体にも影響が出て、頭痛をはじめ痛みが起こりやすくなります。
さらに、交感神経活動が活発になると、胃腸の働きが落ちるので気持ち悪くなることもあり、食欲が落ちるケースもあります。一方で、睡眠不足だと食欲を抑えるホルモンのレプチンの分泌量が減り、逆に食欲を増やすホルモンのグレリンの分泌量が増えます。
そのため、睡眠不足だと、胃腸の調子が悪くなって全然食べられなくなる人もいれば、逆に食欲が暴走しだして太る人もいるんです。

人に手が出る、鬱になる……気分の不調も睡眠不足が原因?

渥美:また、睡眠不足は多動になり、衝動性も増します。そのため、待つことが難しくなり、「口よりも先に手が出てしまう」ことにもなりかねません。
そして、今までお話してきた体や気持ちの変化は、すべて「睡眠不足と戦い続けている体の反応」なのです。こういった生活が続くとだんだんエネルギーが減ってきて、落ち込んで、鬱っぽくなってくるケースもあります。

——人によって異なる様々な不調が起きるので、これらの不調が「睡眠不足」が原因かも、とは本人や周囲も気づきにくいかもしれませんね。気を付けたいです。

どのくらい眠ればいいのか?~日本人は睡眠不足~

体にも心にも影響を及ぼす睡眠不足。では、どのくらい眠ればいいのでしょうか?

小学生は半日寝ても「正常」

渥美:では、どのくらい眠ればいいのかですが、こちらが年齢別の睡眠時間を示した図になり、濃いオレンジの範囲がおすすめの睡眠時間です。ここから、就学前のお子さんは9時間睡眠では寝不足、小学校6年生の8時間睡眠は寝不足、中高生の7時間睡眠も寝不足です。
そして、この図を逆から考えることも大切です。「小学校の子どもが半日寝ているんです」、「中高生の子どもが10時間寝ているんです」と、眠り過ぎではないかと心配して病院にお子さんを連れてこられる保護者の方も多いのですが、この図を見ると、正常の範囲内であることが分かります。

——実際はおすすめの睡眠時間を取れている人は、子どもも大人も含め、少ないように思えますね。

眠らない国・日本。大人が寝なければ、子どもが寝るわけがない!

渥美:そうですね。そもそも日本人が諸外国と比べ、睡眠不足なんです。
こちらがOECD加盟国の睡眠時間を比較した図になりますが、日本の睡眠時間は7時間22分と、一番短いんです。韓国が7時間50分ぐらいで、あとは全ての国で、睡眠時間が8時間を超えています。
子どもの睡眠不足を心配する親御さんは多いですが、大人が寝ていないので子どもだって寝ない、ということはあると思いますよ。
親御さんがしっかり寝て、寝ることで自分にこんなにいい変化が起きた、ということをお子さんに教えてあげることが、一番説得力があります。自分が睡眠不足でボロボロなのに、お子さんには「早く寝なさい!」と言っても、説得力はありませんよね。

脳や体の発達にも、当然睡眠は大切!~ノンレム睡眠編

渥美:さらに子どもの場合、脳や体を成長させていかないといけませんが、成長にも睡眠は大きな役割を果たします。
よく言われますが、睡眠には夢を見るレム睡眠と夢を見ないノンレム睡眠の2種類があります。ノンレム睡眠はさらにN1、N2、N3の3つに分かれ、一番深い睡眠のN3の時に成長ホルモンが分泌され、体の成長に対し大きな役割を果たすと言われています。
また、ノンレム睡眠の第2段階であるN2は、スポーツ、編み物、自転車など体を使った動作の記憶の定着に役立つと言われています。

脳や体の発達にも、当然睡眠は大切!~レム睡眠編

渥美:レム睡眠とノンレム睡眠については、深いノンレム睡眠だけが重要なように見えてしまいがちですが、レム睡眠も軽視してはいけないと言われています。
「授業を聞いて覚える」という、まさに勉強や学習に関することは、レム睡眠を経ることで記憶の定着率が向上するという調査結果があります。
人間の睡眠は、前半に深いノンレム睡眠が訪れ、後半にレム睡眠が増えてくるのですが、睡眠時間が短いと、記憶の定着に必要なレム睡眠が十分にとることができなくなってしまいます。

——勉強でもスポーツでも、結果を出したかったら、適切な睡眠をとることが大切なのですね。

より良い睡眠のために始めたい生活習慣

ぐっすり眠れない、寝つきが悪い、朝起きても疲れが取れない……、そんな睡眠は減らしていきたいものです。良い睡眠をとるために必要な生活習慣について伺いました。

良い睡眠は「一日の過ごし方」の結果

良い睡眠は「一日の過ごし方」の結果

渥美:良い睡眠において、まず大切な考え方が「睡眠は睡眠だけ考えるとうまくいかない」ということです。布団に入ってから良い睡眠のためになんとかしようとするのではなく、睡眠は、その日一日をどう過ごしたかの成績表なんです。睡眠にとって良い一日を過ごすことで、良い睡眠が得られるのです。

——良い睡眠のための行動は朝から始まっているんですね。

「スマホが出す光」よりも心配した方がいいこと

——スマホやゲーム機の画面は光っているので、夜に見ると目が冴えて眠れなくなってしまわないか心配している保護者の方も多いと思いますが、こちらはいかがでしょうか。

渥美:光と睡眠について語る上で、メラトニンというホルモンを知る必要があります。これは「今は夜ですよ」と体に教えてくれるホルモンです。 通常、暗い中にいれば、大体夜7時から8時ごろに分泌され、分泌から2~4時間ぐらいすると眠くなる仕組みになっています。しかし、夜でも明るいと眠くなるために必要なメラトニンが分泌されにくくなってしまうんです。

——そうなると、明るいスマホを夜に見るのは睡眠のためにやはり良くないのでしょうか。

渥美:実は「明るさ」だけで見ると、スマホより一般的な部屋の天井照明のほうがずっと明るいんです。スマホ自体が放つ光は一般的な距離で見るなら数十ルクスぐらいですが、天井照明の光は300から500ルクスぐらいで、スマホの約10倍ほどの光があります。
どうしても、スマホやゲーム機は親御さんから見ると悪く見られがちなのですが、親御さんはお子さんのスマホやゲーム機の光に怒るより、天井照明の光を調整した方が睡眠のためにはよいかと思います。
また、「夜の光を減らす」ことも大切ですが、「昼にしっかり光(太陽光)を浴びる」ことも、良い睡眠のためには大切です。室内で窓際に行くよりも、外に出ることが望ましいです。外に出れば体中で太陽光を浴びられますからね。

ゲーム機が子どもの睡眠に与える影響

渥美:スマホを寝る前に見ると目が冴えてしまうというのは、液晶画面の光のせい、というより「スマホで何を見ているか」が大きいのではないかと思います。
寝る前にすると目が冴えてしまうことは、まずはゲームですね。僕自身ゲームにはまっていた子どもだったのでわかるのですが、ゲームに夢中になると睡眠欲求が下がるんです。
ゲームは「見るだけ」のような受動的な行動ではなく、自分でプレイするという能動的な行動であるため、これが目を冴えさせるのです。最近のゲームはオンラインでチーム戦なども多く、通話しながらゲームをすることもありますが、このような「〇〇しながらゲーム」になると、ますます目は冴えてしまいます。
さらにゲームは、アイテムがもらえたり、敵を倒したり、など比較的すぐにご褒美がもらえますよね。これが脳にある報酬系という仕組みを刺激し、ドーパミンという気持ちがよくなるホルモンの分泌を促します。そうなると「気持ちいい!寝てる場合じゃない!」と目が冴えて、目が覚めてしまうんです。
「睡眠不足は健康に良くない」とは、誰しも脳の理性の部分はわかっているんですが、「気持ちいい!」という報酬系やドーパミンの前では、正直、理性は弱くなってしまいます。

寝る直前のショート動画も目が冴えてしまう理由

渥美:ゲーム以外にも、最近多いショート動画も目が冴えてしまいがちです。これは、次から次に短い間隔で刺激が続いてしまい、こちらもドーパミンが分泌されるからです。同じ動画であっても「2時間ぐらいの単調な動画」のほうが良い睡眠のためにはいいかもしれません。

——内容以外にも、「次から次に移り変わること」自体が刺激的なんですね。

渥美:はい。ゲーム、ショート動画ともに「刺激が強い」ことが共通点で、目が冴えてしまいます。そのため、刺激の強いコンテンツは視聴時間やプレイ時間を短くする、というのも良い睡眠のためのポイントだと思います。

——寝る前は刺激の少ないものを選ぶ、というのが良いかもしれませんね。

スマホで寝落ちし、音が流れっぱなしになることも避けたい

渥美:また、スマホを見ていてそのまま寝落ちしてしまうケースもあると思いますが、寝ている間もスマホから音が流れっぱなしになるのは良くないですね。体は眠っていて起きていなくても、実は体は音に反応しています。
寝落ちしてしまいがちな人は、よりよい睡眠のためにタイマーなどをセットしておいて、時間になったら自動的に停止させるなど、「音が流れっぱなし」にしない工夫も大切です。

睡眠について親子で話し合う際のポイント

たくさんの良い睡眠のためのアイディアをいただき、さっそく実践してみたくなりますが、実践の際にも注意があります。

導入の際は「一気にやりすぎない」&「あなたのためにと言わない」

導入の際は「一気にやりすぎない」&「あなたのためにと言わない」

渥美:ここまで良い睡眠のために色々お話させていただきましたが、家庭で取り組む際には、こういったことを「一気に導入しすぎない」ことも大切です。
というのも、「突然の変化」は、私たちの本能的な脳の反応で「危険のサインでは?」と思ってしまうんです。そうすると、ノルアドレナリンという警戒するホルモンが出てきて、逆に眠れなくなってしまうんです。
何より、お子さんにしてみたら、ここまでお伝えしてきた睡眠の工夫も「別にそんなことどうでもいい」と思っている可能性が高いですからね。睡眠のための改善方法は「あなた(子ども)の睡眠のために」ではなく「親である私がやってみたいから」というかたちで行った方がいいです。
また、お子さんの部屋などを調光したい場合、「夜暗くした方が睡眠にいいと聞いたから、部屋の照明を調光しようと思うんだけど、やってもいい?」と子どもに許可を取ってから行いましょう。親が勝手に「あなた(子ども)のためを思って」は嫌がられますよ。

子どものゲームをなんとかしたいとき、「アドバイス」は反発される可能性大

——良い睡眠のためとはいえ、子どものゲーム・スマホの利用時間を今より制限しよう、という話し合いは子ども側の反発を招いてしまいそうですね。

渥美:そうですね。ゲーム・スマホ利用に限った話ではありませんが「他人からの(非自発的な)アドバイス」は基本的に抵抗、反発されます。これはアドバイスする人が、その分野の専門家であっても、保護者などその人にとって近しい人であっても、また国家などの公共機関であっても反発されるという調査結果もあります。
本人以外の非自発的なアドバイス、という時点で反感を買うんですね。

ルールを決める前に必要な二つの大前提

——手ごわいですね。そうなると子どものゲーム・スマホの利用について、親御さんはどうアプローチしていけばいいでしょうか。

渥美:子どものゲーム・スマホ利用について悩まれている親御さんは多くいらっしゃいますが、改善のためにお子さんと話し合うことができる親御さんは、お子さんがハマっているゲームの名前と魅力を言えるなど、お子さんのゲーム・スマホの利用について情報収集ができている親御さんです。
そもそも、お子さんが何のゲームが好きなのか知らなければ、話し合いのしようがないですよね。お子さんはゲームの戦略性に魅力を感じているのか、 コミュニケーションに魅力を感じているのかによってもアプローチは変わってきますから。
さらにいうと、そもそもの親子の関係性もアプローチに影響があります。挨拶すらできない関係性でゲーム・スマホの利用をどうするかという話はできません。「①親子の関係性が良好であること」「②お子さんのゲーム・スマホ利用についての情報収集ができていること」ができた上で、「③ルールについての話し合い」ができるんです。いきなり、①②を飛ばして③をすることは難しいと思います。

子ども、保護者、ゲームの中で、「悪者」を出さない話し合いを

渥美:そして、「人から決められたルール」は誰が言おうが反発される傾向がある以上、ルールは必ずお子さん側の自発的なものにする必要があります。
親御さん側の「こうしたらいいんじゃない?」と誘導してルールを決めたとしても、お子さんにしてみれば「ルールなんて決めてないもん」になってしまいます。

——それは自分がコミットしたルールではない、となってしまうんですね。

渥美:はい。どうしても親御さんは「この悪いゲームから、子どもをどう引き離せばいいか」という発想になりがちですが、子ども、保護者、ゲームの中で、誰も「悪者」を出さないことが大切です。
ゲームを悪者にしたくなるときほど、子どもの中でゲームがどれほど魅力的で救いになっているのか、ということは考えてみてほしいですね。

POINTまとめ
  • イライラ、憂鬱、食欲不振or太りだす……睡眠不足は体、心の両面に悪影響
  • 日本人は諸外国に比べ睡眠不足!大人が眠れば子どもも眠る
  • ゲーム、ショート動画は目が冴えるので、時間やタイミングに注意

POINTを意識して約束を作ってみる

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石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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