親子でスマホ・ゲームお約束メーカー
インタビュー
2023年4月25日

ゲームばかりしている子どもの睡眠時間が心配――ゲームと上手に付き合いながら睡眠不足にならない方法を眠育アドバイザーに聞いてきた

夜遅くまでゲームで遊んでいて、寝不足のまま学校に行っちゃう子どもがいるみたいね

睡眠不足になると、集中力が下がって勉強はもちろん、日常生活にも支障をきたす可能性があるんじゃ。ゲームと上手に付き合いながら、睡眠不足にならない方法を睡眠の専門家に聞いてきいたぞい!

もくじ
高橋大洋さんプロフィール高橋大洋さんプロフィール
眠育アドバイザー。小樽商科大学・帯広畜産大学・北見工科大学 非常勤講師。フィルタリングなどIT企業勤務をきっかけに、「ネットとのつきあいかたをオトナにも分かりやすく」に取り組む。一般社団法人セーファーインターネット協会の研究員の立場では、子どもとネットの問題についての調査研究や教材開発、指導者養成を行う。個人の立場では、社会啓発活動に取り組む企業やNPO等への専門助言にも注力。札幌市在住。子どもは現在高2と中2。
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ゲームを理解した上で睡眠の重要性を教えてあげよう

子どもが夜遅くまでゲームで遊び、次の日、寝不足のまま学校へ行ったことで「お子さんは集中力が足りない」と先生から指摘された親御さんもいるのではないでしょうか? 今回は、眠育(みんいく)アドバイザーの高橋大洋さんに、子どものゲームと睡眠の関係について伺ってきました。ゲーム機を取り上げることだけが解決方法と考える親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、ゲームと睡眠の上手な付き合い方についてアドバイスを聞いてきたのでぜひ参考にしてみてください。

ゲームや動画の視聴が睡眠時間を削るきっかけに

――高橋さんは眠育アドバイザーとしてどのような活動をされているのでしょうか??

高橋:眠育アドバイザーは、日本睡眠推進協議会が定める講座を受講することで得られる民間資格です。私も講座で睡眠のメカニズムや役割、睡眠の記録から情報を読み解く方法などを学びました。現在は、眠育アドバイザーとしての知識を生かしながら、子どもの睡眠と家庭でのネット利用に関する講演活動などを行っています。

――高橋さんは、なぜ眠育アドバイザーになろうと思われたのでしょうか?

高橋:私は元々、青少年のインターネット利用についての研究や講演をしていました。活動を続ける中で、子どもたちがゲームや動画視聴、SNSの利用でインターネットに触れる機会が増えるほど、子どもの睡眠時間が削られることを実感するようになりました。睡眠時間を削ることの弊害については、漠然と理解はしていましたが、子どもの睡眠時間がどんどん削られている現状を知るにつれ、しっかりとした知識を得る必要があると感じて眠育アドバイザーの講座を受講しました。

炎上の種類

――子どもが夜遅くまでゲームを遊んでいることに困っている親御さんの中には、ゲーム機を取り上げることが解決方法だと考えていると思いますが、ゲーム機を取り上げることについてどう思われますか?

高橋:私も親なのでゲームばかりしている子どもからゲーム機やスマホを取り上げたくなる気持ちはわかります。でも、ゲーム機を取り上げたとして、子どもは何をして遊べばいいのでしょうか? 「外で遊びなさい」と言っても、今は少子化の影響で近所に同年代の子どもがたくさんいる環境でもありません。共働きのご家庭も多いので、親が子どもと遊んであげるのも難しいと思います。 確かにゲームのやりすぎで睡眠不足になってしまうのは大きな問題ですが、家でゲームをしている分には、外で事故にあったり事件に巻き込まれたりすることもないので、むしろゲームを取り上げて外に放り出してしまうことのほうが危険と言えるかもしれません。

ゲームはコストパフォーマンスの良い安全な娯楽

――そういう意味では、ゲームは安全な娯楽と言えますね。

高橋:そうですね。忙しい親御さんにとってゲームはありがたい存在だと思います。安全ですし、コストパフォーマンスも高い娯楽なので。ゲームが好きなお子さんを持つ親御さんの中には学校の先生や親族から「ゲームばかりさせているのはよくない」とプレッシャーをかけられることもあると思うのですが、そうやって親御さんを追い詰めてしまうのも良くありません。ゲームを悪いものと決めつけず、ゲームがコストパフォーマンスの良い安全な娯楽であることを理解した上で、子どもの成長に欠かせない睡眠の重要性を知っていただき、ゲームと上手く付き合っていくことをおすすめします。

睡眠不足がもたらす悪影響とは?

ゲーム機をただ取り上げるのではなく、コストパフォーマンスの良い安全な娯楽という特性を理解した上で睡眠の重要性を知ることが大切と語る高橋さん。それでは、睡眠不足になることでどんな悪影響があるのでしょうか? 

根強く残る「寝ずに頑張る」という考え方

高橋:子どもの睡眠不足について考える前に、まず大前提として、日本の大人が睡眠を軽視していることが問題です。例えば、かつては大学受験について「四当五落」などという言葉がありました。4時間睡眠の受験生は合格するけど、5時間寝ているようだと不合格になるという意味ですね。バブル景気の1989年には栄養ドリンクのキャッチコピーだった「24時間戦えますか」が流行語になったりもしています。 働き方改革などで状況は変わってきていますが、いまでも「寝ずに頑張る」という考え方は根強く残っていますよね。

――受験生や社会人は「寝ずに頑張る」ことで結果を出せると考えがちですよね。

高橋:経済協力開発機構(OECD)が2021年に発表したデータによりますと、日本人の平均睡眠時間は調査対象国の中で最下位です。一方で、就業1時間当たり付加価値を表す労働生産性についても38カ国中27位とかなり低い水準です。簡単に結論づけることはできないかもしれませんが、あえて端的に言うと「睡眠時間が少ないことで生産性が低くなっている」ということです。

小学生に必要な睡眠時間は9時間から12時間

――確かに睡眠不足だと無気力になり、モチベーションも低下する気がします。日本人は睡眠を軽視しがちで睡眠時間が足りていないとのことですが、どのぐらい睡眠をとればよいのでしょうか?

高橋:先ほどお話した2021年のデータによると日本人の平均睡眠時間は7時間22分とのことですが、別の調査では6時間台というデータも出ています。対して、アメリカやヨーロッパは8時間以上というデータが出ているので、日本人は1時間以上も少ないことになります。 必要な睡眠時間は年齢とともに短くなりますし、個人差も大きいのですが、大人はできれば8時間、少なくとも毎日最低7時間以上は睡眠時間をとるべきだと思います。

――子どもの睡眠時間についてはどうでしょう?

高橋:アメリカの睡眠医学会の研究によると、6歳から12歳の子どもは9時間から12時間の睡眠が必要とされています。

――12時間!?

高橋:驚かれるのは当然だと思いますし、日本だと現実的な数字とは思えませんよね。しかし、子どもの発育のためには、個人差はありますが、それだけの睡眠時間が必要ということです。睡眠不足によって、子どもが高血圧や糖尿病といった生活習慣病にかかるリスクが高まることや、うつ病の発症につながる可能性も指摘されています。

炎上の種類

しっかり寝ることで勉強の効率も上がり、ゲームも上手くなる

世界の平均と比べて1時間以上、睡眠時間の短い日本。子どもたちの睡眠も推奨される時間が現実的に感じられないほど短くなっている状況の中で、しっかりと睡眠をとることのメリットについて高橋さんに詳しく伺いました。

睡眠が本来のパフォーマンスを引き出してくれる

――しっかり寝ることでどんなメリットが得られるのでしょうか?

高橋:必要な睡眠をとることにより、その人が元々持っているパフォーマンスをしっかり発揮することができます。睡眠不足による弊害で最もわかりやすいのは集中力の低下です。集中力が低下すると、仕事も勉強も手につかなくなりますし、運動能力も低下します。精神的にも不安定になったり、ちょっとしたことでイラっとしてしまったりと対人関係に悪影響を及ぼすこともあります。そして睡眠不足は自覚しにくいという怖さがあります。仕事や勉強が手につかなかったり、運動能力が低下していることについて「自分の能力はこの程度」と思い込んだり、すぐにイラっとしてしまうことについて「こういう性格」と決めつけてしまうようにもなりがちです。

――日常生活が上手く行かない原因が睡眠不足にあると気づかずにいる人も多いのかもしれませんね。

高橋:そうですね。土日にいつもより長く寝てしまうようなら、平日の睡眠が不足している可能性があることを知って欲しいですね。自分の睡眠時間をあらためて見直し、しっかりと睡眠をとることで仕事や勉強が上手く行ったり、精神的に落ち着いたりする可能性がありますので、試してみてください。

炎上を防ぐために必要な「約束」とは?

睡眠時間をしっかりとることでゲームも上手くなる

――睡眠で本来のパフォーマンスを発揮できるということは、ゲームが上手くなるということもあるのでしょうか?

高橋:あると思います。例えばメジャーリーガーの大谷翔平選手や将棋の藤井聡太さんといった著名なプロプレイヤーは、みなさんしっかりと睡眠時間をとられています。子どもたちが憧れるプロゲーマーやYouTuberの方も寝る時間帯が遅くなったとしても、睡眠時間そのものはしっかりとられているそうです。 ゲームに関しては、子どもたちの間で最近流行っているFPS(一人称視点の射撃ゲーム)にも関連するような研究がありますね。アメリカで兵士の睡眠時間と射撃の命中精度に関する実験が行われたのですが、結果は歴然で睡眠時間が7時間を下回ると命中率はどんどん低下していったそうです。 「ゲームばかりしていないで勉強しなさい!」と子どもを叱っても、子どもはなかなか聞いてくれませんが、「ゲームが上手くなりたかったら、ちゃんと寝ないといけないよ」と例を挙げて、睡眠の重要性を説いてあげれば耳を傾けてくれるかもしれませんよね。ゲームが上手くなりたい子どもがしっかりと寝てくれれば、結果的に勉強の効率が上がったり、精神的に安定したりと多くのメリットを享受することができます。

必要な睡眠時間から逆算すると一日のスケジュールが決まる

しっかりとした睡眠をとることで、子どもが持つ本来のパフォーマンスを発揮できるようなると語る高橋さん。子どもに十分な睡眠をとらせるために親はどんなことをすれば良いのか伺いました。

小学生が平日で自由に使える時間は2,3時間

――子どもが睡眠の重要性を理解してくれたとして、親は子どもがしっかりとした睡眠をとるためにどんなことをすれば良いのでしょうか?

高橋:親御さんにやってほしいことは、必要な睡眠時間をもとに、子どもの一日のスケジュールを整えてあげることです。前述させていただきましたように小学生に必要な睡眠時間は9時間から12時間です。12時間はむずかしいと思いますが、例えば10時間の睡眠をとらせようと考えると、平日のスケジュールは簡単に組むことができるはずです。登校時間が朝の8時だとしたら、少なくとも1時間前には起きて着替えたり、朝食を食べたりといった準備が必要ですよね。7時に起きるとしたら、その10時間前には寝ている必要があるので、夜の9時には寝なくてはなりません。

――学校が終わって家に帰ってくる時間が午後4時だとすると、寝るまでの時間は5時間になりますね。

高橋:その5時間で夕食を食べたり、お風呂に入ったりと、必ずやらなきゃいけないことがありますよね。眠る前にゲームやスマホの画面を見ていると脳が興奮して眠れなくなるので、寝る時間の1時間前にはやめさせるとして、子どもが自由に使える時間は2、3時間といったところです。

炎上を防ぐために必要な「約束」とは?

特別な日を作らず決まった時間に眠ることが大事

――そう考えるとスケジュールは立てやすいですね。

高橋:ここで大事なのが金曜の夜や土日、祝日といったお休みの日です。親御さんによっては、金曜の夜などに「明日は学校が休みだから、いつもより遅くまで起きていていいよ」などと、特別な日を作ってしまったりするのですが、そういった特別な日はできるだけ避けてください。人間の体はそんなに器用にできていません。一度、夜更かしをしてしまうと、リズムは簡単には戻りません。なので、平日は夜9時に寝させると決めたら、金曜の夜であろうと土日であろうと、そのルーティンを守れるように手伝ってあげてください。

良い夜更かしなどない

――ルーティンを守らせることが大事なんですね。

高橋:そうです。親御さんの中には、ゲームでの夜更かしはダメでも、テストの前の日の夜に夜更かしして勉強しているお子さんを「えらいね」と褒めたりする方もいらっしゃるかと思いますが、良い夜更かしなどありません。夜更かしして勉強した結果、寝不足で実力が発揮できないこともありますし、ルーティンを崩したことで、決まった時間に眠れなくなって、数週間にわたって寝不足な状態が続いてしまう可能性もあります。夜遅くまで勉強したことで、テストで良い点がとれたとしても、そこでリズムを崩し、勉強に身が入らない日が続いてしまうというのは本末転倒ですよね。

――特別な日を作らず平日と同じ時間に寝かせるとして、休日の日中に子どもがゲームばかりしてしまうことについてはどう思われますか?

高橋:休日に子どもがゲームばかりしていることについて、心配になる親御さんの気持ちはわかります。それでも、まずはしっかりと睡眠をとることを重視し、毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きているなら、ある程度は大目に見ることも大事です。もし今、お子さんが夜遅くまでゲームをしていて、寝不足な状態が続いているとしたら、休日の日中にゲームをやることを大目に見てあげる代わりに、規則正しく睡眠をとるようにさせてください。 規則正しい睡眠さえとれていれば、社会生活をきちんと送ることができます。しっかりと寝て、頭が覚えた状態で学校に行けば、効率的に勉強もできます。子どもにいきなり多くのことを求めるのは難しいと思うので、まずは同じ時間に寝て、同じ時間に起きることを守らせ、しっかり寝てさえいればある程度のことは大目に見てあげるという姿勢が大事です。

眠育アドバイザーから見た『お約束メイカー』は?

最後に、ガンホーの『お約束メイカー』について高橋さんに感想を伺いました。

子どもたちが自発的にルール(約束)をつくれるようになるのが理想

高橋:良い試みだと思います。『お約束メイカー』でルールを作ろうと提案すること自体も、子どもとの関係を考える上で良い試金石になると思います。子どもがルール作りに賛同してくれるなら、すでに親子の関係はある程度、良好なものだと考えていいでしょう。逆に『お約束メイカー』でのルール作りについて、取りつく島もないようでしたら、子どもとの関係を見直す必要がありますよね。たとえば、今回お話させていただきましたように、まずは「毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる」という約束だけを守ってもらうところから始めてみてください。

POINTまとめ
  • 小学生に必要な睡眠時間は9時間から12時間
  • しっかりとした睡眠が本来のパフォーマンスを発揮させる
  • 必要な睡眠時間からスケジュールを逆算して決めてあげる
  • 特別な日を作らずルーティンを守ることを第一とする
  • 睡眠時間を約束のベースにする

POINTを意識して約束を作ってみる

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斎藤ゆうすけインタビュアー/ライター
斎藤 ゆうすけ
さいとう ゆうすけ。ライター・放送作家。大学在学中よりゲームメディアで記事の執筆を行い、現在はテレビやラジオの放送作家として活動。バンタンゲームアカデミーおよび東放学園映画専門学校にて、講師としてゲーム関連の講義も担当しており、バンタンゲームアカデミー高等部eスポーツ専攻ではプロゲーマーを目指す高校生向けにネットリテラシーの講義も行う。活動に関する告知はTwitter『斎藤ゆうすけ(アニゲウォッチャー)』にて発信中。
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