「デジタルウェルビーイング」って、インターネットを使いすぎないってことよね?
時間という「量」だけじゃなく、「質」で見てみることも大切ジャ!
- 関正樹さん

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児童精神科医。福井医科大学卒業。岐阜大学精神神経科入局、土岐市立総合病院精神科を経て、現在は大湫(おおくて)病院(岐阜県瑞浪市)勤務。 所属学会は日本精神神経学会、日本精神病理学会。日本児童青年精神医学会では代議員を務める。
子どもに「ご飯だよ」と呼んでも返事がない。部屋を覗けば、またゲーム画面に向かっている…。 そんな姿に「このまま引きこもるのでは?」「ゲームのせいで心を病んでしまうのでは?」と不安を感じる親御さんは少なくありません。でも、実はそのゲームが、子どもの心を守るための「安全地帯」だとしたらどうでしょうか? 無理に禁止するのではなく、ゲームを「心の支え」として捉え直す「デジタルウェルビーイング」の考え方を、児童精神科医の関正樹さんに伺いました。
子どものメンタルヘルス不調とゲームの関係
ゲームやインターネットが子どものメンタルヘルスに悪影響を及ぼすのでは?と、不安を感じる保護者も少なくありません。実態はどうなのでしょうか?
「ゲームやネットをすること」と「メンタルヘルスの悪影響」に因果関係はない
関:新しいメディアやゲームが出てくると、大人は子どもへの影響が心配ですから、ゲームやインターネットとメンタルヘルスの関係について議論が出がちですよね。
なかでも、「攻撃的なゲームをすると性格も暴力的になるのか」という研究は昔からされていますが、因果関係(AをするとBになる。ここでは暴力的なゲームをすると性格も暴力的になる)という、はっきりとした結果は見られていません。
ただ、「ゲームやインターネットをすること」と「メンタルヘルスの状態が悪くなること」の間の相関関係(AとBには関係がある)を調べた研究は多くあり、相関関係はあるのではと言われています。
例えば「不安や鬱傾向のある人たちが長時間ゲームをしている」場合、「長時間ゲームをしているから、不安や鬱傾向がある」とも、「不安や鬱傾向のある人たちが、ゲームを長時間利用している」とも解釈できるわけです。
ゲームが子どものメンタルヘルスにおいてポジティブに働いたケースも

——逆に、ゲームが子どものメンタルヘルスにポジティブに働いたケースはあるでしょうか?
関:もちろん、ありますよ。
ゲームにはまっている子どもたちは、学校に行きづらくなっているケースも多いんですが、学校に行けないというのは自分の居場所がなくなることですから、子どもは学校行かずに済んでラッキーだなんて思っておらず、子ども自身はしんどい思いを抱えています。
最初は嫌なしんどい気持ちを回避するためにゲームをしはじめます。これはやりたくてゲームをしているというより、元々好きだったゲームだからやれているだけ、という状態です。
ただ、ゲームをしていると、オンライン上での雑談を通じて、いいなと思える人や、自分と同じように不登校を経験した人とも出会っていくんです。そこで進路や将来像を見出していった子どもたちもいます。
そこまでいかなくとも、ゲームで知り合った友達から「週末はカードショップの大会に出るんだ」とか「プラモデルを買いに行く」などゲーム以外の趣味を聞き、自分の趣味も広がることで出かける機会が増えたケースもあります。
ゲームの没頭、どこからが危険?
——子どもがゲームに没頭している状態で、これは危険なのでは?と判断した方が良い基準はあるのでしょうか?
関:例えばゲームに没頭し、夜更かしになり、朝寝坊になりがちだけど学校に通えている子どもは別に「治療」の必要はないと思います。
ただゲームに没頭し学校に行きづらくなっている状態だと、これは依存と診断されるというよりは、不登校という状態だと思いますから、援助機関に繋がられた方がいいですね。
——「学校に行く」と「学校に行けなくなる」の間に何があるのでしょうか。
関:ゲーム依存の診断基準を見ると、ゲームが止められないこと、ゲームが最優先になってしまうこと、親や先生にゲーム利用について叱られるなどネガティブなことがあってもゲームがやめられず学校に行けない状態が続いてしまうこと、などが記載されています。
ですが、そもそも「学校に行きたい動機がない」とか、「学校の中で居心地が悪くなっている」ことだって十分考えられます。「ゲームがやめられない→学校に行けない」という「因果関係」まではわからないですよね。
——「そもそも学校に行きたくない→家で手軽にできるゲームをしている」とも考えられますよね。
関:はい。ですので、どこからが危険なのかを見極めようとするよりは、現実の居場所がなかったり、コミュニティで苦しい思いを抱えていたりする人は、なんらかのメンタルの不調が出てくる可能性もありますので、相談できるところに繋がるというスタンスの方が良いと思います。
子どものゲーム、どう親が管理する?
気がかりなことが多い子どもとゲーム。親はどう管理すればよいか尋ねました。
子どものゲームをリビングでさせる?それとも子どもの部屋?
——ゲーム機を子どもに与えたときに、ゲームを子ども部屋でさせるか、保護者の目が届くリビングでさせたほうがいいか迷っている保護者も多いですよね。
関:小さなうちは親御さんの見えるところでゲームをした方がいいのは確かです。
ただ、保護者は管理をしたがるのですが、管理よりも子どもがゲームの中でどんなことを楽しんでいるのか、親御さんも一緒に見て、考える方がいいですね。
というのも、昨今のゲームは、ほぼチーム戦や対戦など人付き合いの要素があります。一緒にゲームをしている人が学校の友達なら、学校での関係性にも影響を与えます。
そうなると「ゲーム上での人との付き合い方を教える」教育が必要になってきます。その付き合い方を教えるのは、やっぱり最初は親御さんなんですよね。
自転車の乗り方を教えるように、ゲームの仕方も教えていく
——ゲームは勝負事が多いですから、カッとなってしまうことも出てきますよね。
関:はい。ですから、子どもと一緒にゲームをしながら「今の言葉遣いだと傷つくよ」とかコミュニケーションを教えていく。それこそ自転車の乗り方だって一緒に関わりながら親が教えますからね。
ゲームをさせないことで、子どもは仲間内に入りにくくなることも

関:ゲームに関しては親が与えまいと思っていても、少なくとも小学校の1年生までには友達の家でゲームに触れたり、YouTubeの実況動画などで流行の文化として触れるんですよね。
そして特に小学生男子集団だと、「同じゲームをやってない」というだけで友達集団に入りにくくなることもあります。親の意向で少数派を選ばせることは、かなりしんどい思いを子どもにさせることにもなります。
令和の現代では、ゲームが友達関係を維持するために「場所」として使われているのは確かだろうなあと感じています。
家の方針でゲームができない場合、子どもは友達同士の話題についていこうとゲーム実況動画などで勉強したりしますが、それでも「お前このゲーム持ってないじゃん」と仲間内から追い出されることもあるわけです。
SNSも親と一緒に使い方を学びたい
——ここまではゲームのお話でしたが、「親がまず子どもに実践で教える」のはSNS利用など、他のインターネットサービスについても共通していると思いました。
関:そうですね。僕はSNS、スマホも低年齢から大人と一緒に利用していくのが安全だと思っています。
というより、大人になって急に使い始める方が危ないのかなと思います。文章や映像で「インターネットやSNS、ゲームにはこういう危険がありますよ」と教えられているだけで、いざスマホを持ったときにそれを実践できるのかなと思いますね。
青少年のSNS規制の流れが世界的に進んでいますが「〇歳までSNS禁止」という法律があったところで、法律の網を潜り抜ける方法はあるでしょう。そして、隠れたところで利用してしまっては、誰も管理ができませんから、今よりもっと危ない利用方法をする子どもも出てくるのではないかと危惧しています。
すごく危ないことに遭うまでに、100の「ちょっと危ないこと」をやっている
関:インターネットですごく危ない目に遭ってしまう子どもの多くは、その前に「ちょっと危ないこと」を100回ぐらいやっているんですね。
——「このくらい大丈夫だろう」とちょっと危ないことを繰り返していくうちに油断して、重大なことに巻き込まれてしまうのですね
関:はい。その「ちょっと危ないこと」の時点で話し合えることが「すごく危ないこと」を防ぐためには大切なんです。
子どものデジタルウェルビーイングのために親ができること
デジタルウェルビーイング(スマホなどのデジタルとよい関係を築き維持すること)という言葉もありますが、子どものデジタルウェルビーイングのために、保護者ができることについて尋ねました。
「利用時間を減らそう」よりも大切なこととは
関:デジタルウェルビーイングは「時間をどうやって管理するか(長時間利用を避けよう)」といった「量」で語られがちですが、本来「ウェルビーイング(良い状態)」ですから、デジタル生活における「質」が重視されるべきなんですよね。
子どもがデジタル世界から心理的、社会的、身体的な面で健康的なものを得られているのか、そしてその健康を保てているのか、という「質」の議論が大事だと思います。
自分のしんどさから逃れるためにゲームをしているケースも

——保護者ですと「ゲームやネットをする時間」という「量」を気にされている方が多そうです。
関:「ゲームの時間が長くなればなるほどメンタルヘルスに悪影響がある」という根拠は実はそこまで強くはないんですよね。
時間という量の問題というより、「自分のしんどさを無視するためにゲームをしている」という状況の方が、やはりメンタルヘルスを毀損していると思われます。
一方、長時間友達と雑談をしながらゲームを楽しくやっている場合は、メンタルヘルスに悪い影響はないんですよね。子どもが心理的な意味で、ゲームから友情や幸福などポジティブなものを得ているか、そういう「質」を見ていくことなんです。
孤独な子どもが、ゲームを通じさらに孤独になっているのか、それともゲームの中で友達を作り、居場所を得ているのか。後者の場合はゲーム時間自体が長いものであっても、繋がりは広がっていますから、そんなに不健康だとは言えないわけです。
もちろん、睡眠や運動の時間があるか、といった身体的な健康の面も考えなくてはいけないですが、心理的、社会的な繋がりの「質」も大事ですね。
子どものネットの「質」をどうやって見極める?
——インターネット上で知り合った人とポジティブな繋がりが持てるといいのですが、ちょっとした喧嘩の範疇を超えたような、深刻な人間関係のトラブルになるケースもありますよね。子どものインターネット利用における「質」を保護者が見極めるポイントはあるでしょうか?
関:大人と子どもで話ができることが大前提です。大人が「ネッ友なんて」と下に見ていたら、子どもはインターネット上の状況を大人には話さないでしょう。 私達大人がインターネット上の人間関係は「現実の人間関係」で「ネッ友も友達である」という認識を持っておかないといけないんです。ネッ友との愚痴のような小さなトラブルをちゃんと相談に乗ることで、大きなトラブルを防ぐことに繋がっていきます。
ネット上のトラブルを子どもから相談されたときに「ほら見ろ、インターネットなんてするからだ」といった扱いをしないことが大切です。
子どものゲーム、ネット利用の約束の結び方
関:子どものゲーム、スマホの約束について、親御さんたちは、子どもは約束を守るべきだと思っていますが、約束は親も子どもに守らせないといけませんから、厳しいルールを作ると親も大変だということは忘れないでほしいですね。
子どもが約束を守れなかったとき、 親御さんは子どもを責めがちですが、親御さんも守らせられなかったわけですから、お互いに歩み寄りたいところです。
ですが、守れなかった約束も、親御さん側にも守らせられなかった背景があってのことだと思います。そんな時は、親御さん自身にも相談できる先を見つけるのも大事だと思います。
——関先生に相談したい!という保護者の方も多いでしょう。ただ、地理的な条件から難しい場合もあると思いますので、ほかにはどのような相談先が適切でしょうか。
関:相談先として、病院の代わりになるところはあまりないのですが、少なくとも自分の悩んでいることや、自分がしんどいなって思っていることをシェアできる、信頼できる他人や機関は見つけた方がいいと思います。
解決できないかもしれないけど「私もわかるよ」って同じ悩みを持っている人はいます。そういった方と繋がり、シェアすることが大切ですね。
- POINTまとめ
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- 自転車の乗り方を教えるように、ゲームの付き合い方も教える
- ネッ友なんて、という姿勢だと、子どもは教えてくれなくなる
- 親も子も、人と繋がることが大切
インタビュアー/ライター
石徹白 未亜- いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂







