子どもがSNSでトラブルになっているみたいだけど、内容がよくわからないわ…。
子どものコミュニケーショントラブルは大人からは見えづらいこともあるじゃろうが、しっかり歩み寄ってほしいゾィ!
- もくじ
- 尾谷昌則さん

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法政大学文学部教授。専門は言語学。特に若者言葉・新語・ネット語に代表されるような現代日本語の変化や、それらの表現が持つコミュニケーション上の機能・役割について研究している。共著書に『構文ネットワークと文法』(研究社)、『対話表現はなぜ必要なのか-最新の理論で考える-』(朝倉書店)、『はじめて学ぶ認知言語学 ことばの世界をイメージする14章』(ミネルヴァ書房)など。
子どもたちにとって重要なコミュニケーションツールとなっているSNS。昔はコミュニケーションといえば、顔を向き合わせて会話することが当たり前でしたが、電話での交流が加わり、現代ではSNSを使い、文字のみで短文のやりとりを行うことが多くなりました。そんな中、SNSでのやりとりが誤解を生み、いじめに発展してしまった、という事例も発生しています。今回は、現代の子どもたちがコミュニケーショントラブルの壁を乗り越えるために大切なポイントや、保護者が気を付けるべきことを、法政大学文学部日本文学科・教授の尾谷昌則さんに伺いました。
テキストの落とし穴!音声、対面コミュニケーションとの違いとは何か
SNSなどでのテキストコミュニケーション、電話やボイスチャットなど音声コミュニケーション、そして実際に面と向かっての対面コミュニケーション。これらのコミュニケーションスタイルについて、それぞれの特徴を伺いました。
速くて正確だが、遠回りなところもある「テキスト」

尾谷:まずテキストでのコミュニケーションですが、SNSやメールの場合、入力された内容が素早く、正確に相手に伝わるところは利点です。一方で、相手の表情や、声のトーンといったことがテキストだけだと伝わらないため、「相手がどういうつもりで話しているかわからない」という欠点もあります。
——SNSで相手からのシンプルな返答を見て、「あれ、そっけないな、怒らせた?」と気をもんだり、不安や誤解も生まれがちですよね。
声の調子が加わる「音声」は「対面」より大胆になれることも

尾谷:次に音声でのコミュニケーションですが、テキストのほかに「声の調子、トーン、話し方」などが加わります。
女性で電話のときに声が高くなる方がいます。これは若く見せたい意識があるという心理学の実験結果もありますが、「頑張って相手とコミュニケーションをしようとしている」意図も声から伝わりますよね。こういったことはテキストだと全く伝わりません。
さらに音声と対面を比べると、音声はお互いの姿が見えません。極論ですが、裸でしゃべっていても相手にはバレません。話しているときの外見に気を遣わなくていいなど、相手への配慮が薄れるため、対面より本音が出やすい、とも言われています。
——正確だが、文字で書かれている以外のことが伝わらない「テキスト」、逆に表情や気持ちの抑揚が伝わりやすい「対面」、その中間にある「音声(ただし、対面より本音を言いやすいこともある)」という位置づけなのですね。
テキストコミュニケーションの時に大切にしたいこと
文字以外の情報が伝わりにくいテキストでのコミュニケーションで、どうしたらトラブルを防げるでしょうか?
人はなぜ絵文字で盛ってしまうのか
尾谷:言語コミュニケーションは「説得の三要素(※)」のうちのロゴス(論理)とパトス(感情)から成り立ちます。プライベートのコミュニケーションはこの二つがバランスよくミックスされているのが理想なんです。
※説得の三要素:古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスが提唱した、人が説得されるために必要な三要素(ロゴス=論理、パトス=感情、エトス=信頼)。
しかし、テキストはロゴス重視になりがちです。というのも、昨今のような電子テキストコミュニケーションの発祥はパソコンによる電子メールで、そもそもはビジネスシーンで使われるものでした。ビジネスシーンならロゴス重視で問題ありませんが、プライベートの場合だとパトスが足りないんですね。
それで、かつての携帯世代の子どもたちはパトスを足そうと、絵文字を多用してメールをしていました。現在の俗にいう「おじさん構文」も絵文字で盛っていますよね。
——絵文字を多用するのは、そっけなくなりがちなテキストコミュニケーションに感情を補いたい、という気持ちからだったのですね。
言語情報は7%? 誤解も多い『メラビアンの法則』について知る

尾谷:対面コミュニケーションによる実験から生まれた『メラビアンの法則』という法則があります。
こちらは、人が話しているときに、話し手の表情などの視覚情報、声のトーンなど聴覚情報、話す内容という言語情報の三つの間で矛盾があるとき、聞き手側はどの情報を重視するか調べた実験です。
結果としては視覚情報(55%)、聴覚情報(38%)、言語情報(7%)の順となりました。例えばニコニコした表情で辛辣なこと言葉を言っていたとしても、これは冗談なんだな、と聞き手に判断されがち(ニコニコした表情の視覚情報が優先されるケースが55%)ということです。
逆に言葉では相手を褒めていても、どこか小ばかにしたような、ニヤニヤとした表情で言っていたなら「嫌味を言われている?」と判断されがち、ということですね。
メラビアンの法則は誤解されがちなのですが、「テキストなどの言語情報の信頼性が7%」という意味ではありません。「視覚情報、聴覚情報、言語情報があり、その中で矛盾が感じられたときに優先する比重が違う」という意味です。
メラビアンの法則ではカバーしきれない重要な要素がある
尾谷:そもそも、メラビアンの法則ではカバーしきれていない部分もあります。例えば「どういう場面で、どういう立場の人が言っているのか」などの「文脈」です。
——文脈は現実のコミュニケーションではとても重要な要素ですよね。
尾谷:そうなんです。表に出る言葉は氷山の一角です。海に沈んでいる氷山を想像してほしいのですが、表面から見える氷山はごく一部分であり、見えない部分(文脈)の方がたくさんあります。
——確かに、言い合いになって相手に「バカ!」と言ったとき、もちろん暴言はいけませんが、その言葉を言うに至ったお互いの歴史があるので、「バカ!」だけを単独で取り上げて「ひどい!」というのは違いますよね。
尾谷:はい。特に家族など、普段やり取りを盛んにしている人間ほど、お互いの文脈を共有できていると思い込みがちです。そのため、どこかで無意識のうちに言葉が足りなくなってしまい、「いちいち説明しなくても大丈夫だろう」と、甘えてしまっているところはあるかもしれません。気を付けたいですね。
コミュニケーションのために日本語の特徴を知る
普段、何気なく使っている日本語ですが、日本語の特徴を知るとコミュニケーションにも役立ちます。
日本は「相槌文化」① 欧米人とトラブルに?
尾谷:日本語は、二人で会話をしている時の相槌の数が非常に多いと言われています。
欧米人は本当に意見が一致したときだけ、「うん」と言いますが、日本人は意見が一致しなくても、「うん」と言い続けるんですね。その時の「うん」は「イエス(=同意)」じゃなくて、「あなたの話を私は聞いていますよ」という相槌なんです。
そのため、欧米人と日本人が話していて、日本人が「うんうん」と聞いていて、最後に日本人が「でも私はこう思う」と言ったら、欧米人から「ずっと“うん(イエス)”って返事をしていたよね!」とトラブルになったという話を聞いたことがあります。
日本は「相槌文化」② 相槌がないと言い訳が続いていく
尾谷:このエピソードから、逆に、多くの日本人は「私の話、ちゃんと聞いてもらえているかな?ここまでは問題ないかな?」ということが不安でしょうがないともとれるんですね。一方で、テキストコミュニケーション、特にメールは「相槌」が入らない状態になります。
その結果、どうなるかというと、「相槌」がないから歯止めが効かなくなってしまい、自分の言い分だけを好きなだけ書けますし、誰しも深層心理では自分は悪くないと思いたいですから、ついつい言い訳がましいことも書いてしまうことになり、相手とのすれ違いが大きくなるんですね。
これはメールに限らず、特に若い世代でのSNSで即レスを求めたり、既読スルーを嫌がるというのも、リアクションという「相槌」がもらえないことを不安に感じている面があるのかもしれません。
親子のコミュニケーションで気を付けたいこと
親子だから分かり合える…とは限らない?親子間のコミュニケーションの注意点について伺いました。
親子の場合「世代差」も意識したい—発破が攻撃に?—
尾谷:つぎに、親子間でのコミュニケーションですが、まず「世代によって価値観が違う」ということを意識したいですね。
一昔前だと、相手に発破をかけるような言葉、例えば「これぐらいできなくてどうするんだ」みたいな言葉は、よく耳にしました。今のように「パワハラだ」と糾弾されることはなかったと思うんですね。
——親世代である私もいやな印象はないというか、むしろ期待されているとも思っていましたね。
尾谷:ただ、最近の若者はすぐ心が折れると言われがちです。今の子どもたちは、言葉を素で受け取ってしまい、「お前はこんなこともできないダメなやつだ」と烙印を押された、ディスられた、というネガティブな受け取り方をしてしまう子が多いようです。
——テキストにすると、さらに伝わりにくいですから特に注意が必要ですね。
子どもには子どもの文化がある
尾谷:「子どもは子どもの文化の中でコミュニケーションをしている」という気遣いが親御さん側でできるかが重要ですよね。
例えば、子どもがトラブルに巻き込まれ、いくら周りの大人が「くよくよするなよ!」と言ったところで、結局子どもは子どもの世界で生きています。
家庭という別世界でいくら励まされても、越えられない壁は絶対ありますよね。そこを親側が分からずにあれこれアドバイスをしたところで、子どもにしてみれば「こっちの気持ちを全然わかってくれてない」「親の論理を押し付けられても、その応用が難しいんだよ」となってしまうでしょう。越えられない壁を越えられると思って、押し付けないことが大事です。
一つの言葉が重い子どもの世界、大人目線であれこれ言わない
尾谷:子どもは発達の途中であり、大人になってくると割とスルーできてしまうことも、ひっかかって悩んだり、考えてしまう。そして、子どもの世界は狭いですから、たった一つの言葉が重く、今後の自分の人間関係や、自分の居場所に影響してくる度合いが強いんですね。
——大人から見たら些細に見えるようなことで子どもが悩んでいるとき、ついあれこれ言いたくなりますが、「子どもは子どもの世界で生きている」ことを忘れないようにしたいですね。
尾谷:親子だからこそ、適切な距離感を保つことが大切かもしれません。もちろん、子ども側から助けを求められたら応えてあげることは大切です。
子どもの世界の多くがスマホにあり、親からは見えづらい

尾谷:また、子どもの世界について、かつては子どもが仲のいい友達と遊んでいる様子を親が直接見ることで、なんとなく察することができました。しかし、今、子どもを取り巻く世界の多くがスマホに吸収されています。
——確かに、かつての子どもの「家の居間でしているゲームやテレビ」、「定期的に買って読んでいる雑誌」、「家の電話で友達との長電話」なども、全部スマホが吸収していますね。
尾谷:親御さんから子どもの世界が見えにくくなっているので、子どもに聞く、話し合うことが大切ですね。
コミュニケーションで一番大切なこと
テキスト、音声、対面問わず、コミュニケーションで一番大切なこととは何なのでしょうか?
コミュニケーションは話し合うしかない!大切なのは勇気
尾谷:これは親子間に限らず、「コミュニケーションで誤解を避けるにはどうしたらいいですか?」とよく聞かれますけど、人間の心理を読むことなんて絶対できないので、言葉に出して確認していくしかないんですよね。なので、結局は「勇気が出せるか」どうかです。
——小手先のテクニックではなく、勇気、気持ちの問題なのですね。
尾谷:はい。自分に向けられた言葉に少し引っかかることがあったときに、勇気がないと、悪いことを言われたと解釈し、「どうせ私は○○だから」とネガティブになってしまいがちです。しかし、勇気があれば、その場で相手に言われたことの意図を聞くことができます。
また、テキストコミュニケーションは相手の表情や声色がわかりませんので、テキスト上ですれ違いが起こっていると思ったら、勇気をもって対面などの別チャンネルで会って、「この前あんなこと言っちゃったけど、気分悪くしなかった?ごめんね」などと話し合えるといいですね。
対面のコミュニケーションの「表情」「音声」を親はフル活用したい

尾谷:また親子は対面で会う時間が長いですから、声色や表情などでさまざまなことを伝えられる対面のコミュニケーションの利点を活かしていきたいですね。
子どもに対し何か伝えるときに、なんとなく軽いノリで言うのか、深刻な顔で言うのかで、まったく伝わり方は変わってきますからね。
——親子でスマホについて約束を作るときは「真剣モード」で行く、など、活用したいですね。
子どものコミュニケーション能力を高めるには?
——テキストコミュニケーションに限らず、コミュニケーションについて様々な発見がありました。最後に、子どものコミュニケーション能力を高めるために保護者ができることはあるでしょうか?
尾谷:大学で教えていて、学生が驚くくらい成長しているなと思う時があるんです。それが「就職活動」なんですね。僕へのメールの書き方もすごく変わってくるんです。ああ、この子はこんな言葉遣いができるようになったんだなって思いますね。
ですので、子どもには「大人と関わる」経験を積ませてあげた方がいいかもしれませんね。アルバイトなんていいと思いますが、小中学生のお子さんなら、お正月に親戚の大人が集まっているときなどに、大人の輪の中で話すというのも大切な機会だと思います。
- POINTまとめ
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- テキストコミュニケーションは書かれた内容は正確に伝わるが、感情が分からないので誤解も多い
- 言葉は氷山の一角、海に沈んでいる「文脈」を忘れずに
- コミュニケーションで一番大切なのは勇気!
インタビュアー/ライター
石徹白 未亜- いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂







