我が子が性被害に巻き込まれるなんて、考えたくもないわ!
目を背けたくなることではあるが、実態を知ることが一番の防犯対策になるのジャ!
- もくじ
- 櫻井鼓さん

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追手門学院大学心理学部教授、横浜思春期問題研究所副所長、(公社)神奈川被害者支援センター専門委員(心理)。臨床心理士、公認心理師、博士(教育学)。専門は犯罪心理学。警察の心理職として、21年間にわたり非行少年の相談や犯罪被害者への支援に取り組み、現職。『「だれにも言っちゃだめだよ」に従ってしまう子どもたち』(WAVE出版)など著書多数。これまで、内閣府、こども家庭庁、警察庁の有識者委員を務める。
「グルーミング」という言葉を知っていますか?本来は「動物の毛づくろい」という意味ですが、「性的な目的を達成するために子どもを手懐ける行為」という意味でも用いられます。なぜ、子どもは言いなりになって性被害に遭ってしまうのでしょうか?また、加害者はどのように子どもに接近し、心を掴んでしまうのでしょうか?子どもを性被害から守るにはどうすればいいのか。もし、性被害に遭ってしまった時は、保護者はどのように対処するべきか、オンライングルーミングにおける子ども被害の実態を研究している追手門学院大学心理学部教授・櫻井鼓さんにお話を伺います。
親子で知りたい性被害・グルーミングの実態
子どもはどのように性被害に巻き込まれてしまうのでしょうか?その実態を伺いました。
「接触しない」性被害も多い

——子どもに性被害について注意喚起する際、「水着で隠れるところ(プライベートゾーン)は他の人に触らせてはいけない」と指導をすることがありますね。
櫻井:「プライベートゾーンを触られる」というのは相手と「接触する性被害」ですが、性被害には、相手と「接触しない性被害」もあります。例えば、「性的な画像を相手に送ってしまう/送られてくる」「盗撮される」などは、相手と接触していないですよね。
——「性被害」というと、つい「接触」を想像してしまいますが、もっと範囲が広いのですね。
櫻井:はい。近年「グルーミング」という言葉も聞かれるようになりましたが、グルーミングは「わいせつ目的を持って、子どもや若者を手懐けること」を指します。例えば、加害者が子どもと仲良くなって「裸の写真を送って」と要求することなどのグルーミングも、性被害の一種なのです。
インターネット、スマホで世界中に広がるオンライングルーミング
櫻井:私は警察の心理職として、子どもが被害者となった性犯罪の支援にも携わってきましたが、今のようにインターネットが普及していなかったころは、加害者は子どもにとって身近な人、もしくは面識はなくても「子どもに実際に声をかけられるところにいる人」でした。ですがインターネットの普及によって、加害者が地域を問わなくなってきたんです。
——確かに、「子どもに性的な画像を送る/送らせる」は、インターネットがつながっていれば、世界中どこにいてもできてしまいますよね。
「同じものが好き」なら、簡単に子どもと仲良くなれる
——加害者はインターネット上で、どのように子どもに近づくのでしょうか。
櫻井:例えばオンラインゲームですと、そもそも「同じゲームが好き」という人たちが集まります。つまり、ゲームを始める時点で共通意識を持っており、良い関係性が築きやすい下地がすでにあるんです。
——「同じものが好きな人」とは、共通の話題もあり、関係性は作りやすいですよね。
子どもから加害者側に働きかけるケースもある
櫻井:なかには、「子ども側から加害者に働きかける」ケースもあります。例えば、「お小遣い欲しさに、自分の性的な画像を送ってしまう」などですね。子どもにしてみたら数千円は大金ですから。
——子どもが巻き込まれる性被害と聞くと「悪い大人が言葉巧みに子どもを騙す」というケースを想像しがちですが、「子ども側から働きかけている」ケースもあるんですね。確かに、現在40~50代の親世代が中高生だったころも、お金欲しさに性的目的の買取ショップに制服や学用品などを売る子はいましたね。
櫻井:そういった場所で売る子どもも当時いたと思いますが、買取ショップなどには実際に足を運ぶ必要がありましたし、買い手と直接取引する必要があるということもあり、「敷居」はかなり高かったですよね。
しかし今は、スマホ使ってSNSを通じて「子どもの性的なものを買いたい人」と、「売りたい子ども」が手軽につながれるようになってしまいました。そのため、一見、非行行動などがない、いわゆる「普通の子」が、このような性被害に巻き込まれるケースも増えています。
金銭の授受も決済アプリやデジタルギフトなどを活用して、お互いの個人情報や銀行口座番号を知らなくてもできてしまうという手軽さも、被害増加の原因として考えられます。
——今の子どもが「非行化している」というより、「スマホという手軽なツールがある」ことで、ハードルが下がっていることが大きいのですね。
男子も要注意~性的画像を人質にされる「セクストーション」~

櫻井:また、男子の性被害として多いのが「セクストーション」です。
セクストーションとは、SNSなどでつながった相手に自身の性的な写真(自画撮り)を送ってしまい、加害者から「写真を拡散するぞ」と脅され、さらなる性的な画像や金銭を要求されてしまう被害などのことです。
インターネット上では、簡単に「なりすまし」もできてしまいます。ある10代の男子がインターネットで知り合った同世代の女子に「裸の写真を見せあおう」と誘われ、自分の性的な写真を送ったら、実は相手は10代女子になりすました中年の男性だった、というケースもあります。このように男性から男性に対する性被害も、実は多く発生しています。
セクストーションは、被害の7割が男性という報道もあります。中には、年齢問わず被害者が言い出せず、埋もれているものも多いと思います。これは、日本に限らず、海外でも大きな問題になっています。
加害者は大勢の子どもに「営業」をかけている
——加害者はどうやってターゲットの子どもを見つけているのでしょうか。
櫻井:特定のターゲットを決めている、というより、複数の子どもにSNSでDMを送り、反応があった子どもとやり取りをしていく、という感じです。
——こう言っては語弊がありますが、なんだか営業というか、仕事のようですね。
櫻井:はい。グルーミングは「言葉巧みに、詐欺師的な手法を使って、狙った子どもを誘う」というよりも、「手当たり次第に子どもにアプローチし、その中で反応してくれる子どもとやり取りを続けて、ターゲットを絞っていく」というのが実態に思えます。
「知らない人とDM(1対1)で、やり取りをしない」という約束は有効か
——そうなると、インターネット上のやり取りは、「オープンチャットや掲示板サイトのような第三者が見ている場所のみOK」「DMなど1対1で面識のない人とやり取りしない」と親子で約束すれば安心でしょうか。
櫻井:難しいところですね。実は、「みんなが見ている場所だから安心」とも言えないんです。「みんなが見ているから、むしろ本音を言いにくい」ということもあったりします。例えば、変な言動をしている人が掲示板上にいると思っても、「この人、変だよ!」と大勢の閲覧者がいる中で発言することは、逆に自分自身が非難の対象になる恐れがあるので、言い出しづらいケースもあります。
——特に、相手がコミュニティの中で、指導的な立場や影響力のある人だと、言いづらいでしょうね。
櫻井:また、先ほどインターネット上では「性別や年齢をなりすます」ことができるとお伝えしましたが、「一人の人間が複数人になりすます」こともできてしまうんです。
——ということは、ある掲示板で「子どもに、きつい言葉を投げかける人」と「その人を咎め、子どもから優しい人だと思われる人」を、全部一人で自作自演することもできてしまいますよね。恐ろしいです。
グルーミングに遭わないために親子でできる対策とは?
実態を伺うほどに手ごわいグルーミングですが、どう親子で対策していけばいいでしょうか。
ルールは大事。しかし、ルールを作るためには「日頃の親子の関係性」が一番重要
櫻井:まずは親子でスマホやインターネットの利用ルールは決めておいた方がいいですね。年齢が上がるにしたがって、難しくなる点はありますが、少なくとも小学生のうちは、ルールを決めておいた方がいいと思います。
そして、ルールを作るうえで、親子の日頃の関係性を大切にしていただきたいです。良好な関係性がないまま、「ルールを決めましょう」となっても、子どもには響かないですよね。
相手が性的な話題を出してきたら、即ブロック!
櫻井:インターネット上の人とやり取りする際、「相手が性的な話題を出して来たら、もうやり取りはしない」というルールも有効だと思います。思春期を迎えると性的なことに関心が出てきて難しいところではありますが、やはり性的な話をする相手とやり取りをするのは高リスクです。
——性的な画像を相手に渡していなくても、SNSで相手と交わした文字での性的なやり取り画面を「拡散するぞ」と脅される可能性もありますよね。
櫻井:インターネット上では、「まともな人」と「グルーミングしようとしている悪意ある人」の区別が難しいんです。「すごく親身になって話を聞いてくれる人」「優しい言葉をかけてくれる人」は、まともな人にも、悪意がある人にも存在します。この時点で、相手を見抜くのは難しいですよね。
そこを見分けるポイントは、やはり「性的な内容」が入ってきたときです。性的な内容は、次なるステップへの入り口になってしまうので、「即ブロックする」くらいの警戒心を持つくらいでちょうどいいかもしれません。
子どもが性被害やグルーミングに遭った時、保護者はどうすればいい?
子どもが性被害やグルーミングに遭った時、保護者にはすごく言いづらいはずです。保護者はどうそれに気づき、どのように子どもをサポートしていけばよいのでしょうか。
子どもからのサインを見逃さない

——子どもが性被害やグルーミングなど、トラブルに巻き込まれていることに親が気づくためのポイントについて教えてください。
櫻井:子どもの「ちょっとおかしいな」という点に注目してください。例えば、食欲がない、眠れていない、夜驚(やきょう/睡眠中に突然泣き叫ぶ症状)とかですね。または逆に、過剰に元気に振る舞うなどの、いつもとは違うという違和感のある行動です。
このような行動は、「ちょっと友達とうまくいっていない」「先生に怒られた」といったことでも出てきますので、すぐに気づけるかというと難しくはありますが、ポイントとして覚えておいてほしいです。
子どもの重要な話は、何気ない会話を糸口にしてやって来る!
櫻井:あと、「深刻な話題は何気ない会話から来ることが多い」というのもポイントです。「お母さん、ちょっとここに座って。私、性被害に遭ったの」と改まって話をされることがないわけではありませんが、親子で買い物に行っている時などの、日常の何気ないときに、「この間ね……」みたいに切り出される、という感じです。
子どもとの何気ない話の中に、深刻な話が埋もれていることがあります。そこを流さず、キャッチするアンテナを立てておくことは大事ですね。 ここでも、前述のとおり親子の良好な関係が活きてくると思います。
意外!性被害であれば「子どもから詳しく話を聞きすぎない」
櫻井:そして最後のポイント、これは性被害の場合ならではの特徴でもあるのですが、「詳しく子どもから話を聞きすぎず、子どものペースで話してもらう」ことが非常に重要です。
——でも、詳しく状況を把握した方がいいのではないでしょうか?親であれば、あれこれ聞いてしまいそうです。
櫻井:なぜ詳しく聞きすぎないのかというと、もし事件として警察に届け出た場合、子どもが被害者である性被害において、①警察②児童相談所③検察庁などが一度に子どもの話を聞く「司法面接(代表者聴取)」という手続きが行われる場合があります。裁判の証拠にもなる重要な手続きであり、そのために「司法面接のために子どもの記憶を汚染させないこと」が大事なんです。聞かれる回数が少なくなることで、子どもの負担を減らすことができる、というメリットもあります。
親があれこれ聞くことで、子どもの記憶が汚染され、供述が二転三転してしまうのは、その後の手続きからしても望ましくありません。
——「記憶の汚染」とは、子ども自身がパニックになってしまって起きるのでしょうか。
櫻井:子どもには被暗示性があります。これは、人から言われることによって、実際にはそうでなくても、そうであったかのように思ってしまう、という傾向のことです。ですから、子どもの話を聞いているときに、「こうなんじゃない?」と大人の思い込みによって誘導したり、子どもが言った言葉を大人が言い換えることなどによって記憶の汚染が起こるのです。また、「いつ」の質問って、大人でも難しいですよね。「1週間前の夕ご飯は何だったか?」と聞かれても、わからないですよね。はっきりしないのに子どもが答えようとすることによって、話が不正確になるおそれがあります。
子どもの記憶の汚染を防ぐための話の聞き方
——記憶の汚染を防ぎつつ、最低限のことを聞くには、どうしたらいいのでしょうか?
櫻井:「誰に何をされたか」程度でとどめてほしいのです。あとは、子どもが言った言葉をそのまま繰り返してほしいですね。勝手に親が解釈しない、親側の考えを持ち込まないということです。
例えばこのような感じです。
・子どもが「お兄さんが」と言ったら、「おじさんが」と言い換えない
・子どもが「なにか液をかけられた」って言ったら、「変な液をかけられた」と言い換えない
——これは知らないと、やってしまいそうです。
櫻井:「変な液」というのも質問する側の解釈ですから、それを子どもに言うことで「変な液をかけられた」と思い込んでしまい「記憶の汚染」になるのです。もしその液の説明をしてくれたら、子どもが話したそのままの言葉を繰り返す、ということです。
——子どもが多額のゲーム課金をした場合ですと、他の機関に相談する前に保護者側が詳細な状況を把握する必要がありますが、性犯罪被害の場合は対応がまったく異なるのですね。
櫻井:親御さんがお子さんからこのような話を聞いたら冷静でいられないお気持ちはとてもよくわかるのですが、司法面接に備え、あれこれ聞かず、性被害だと思ったらすぐ警察や児童相談所などに相談しましょう。また、SNSなどの相手とのやり取りは証拠となるので、消さずにスクリーンショットを撮るなどで保存しておいてください。
——曖昧にしか聞けないと、逆に「これで警察に届け出ていいのかな?」と、心配になってしまう気もします。
櫻井:親御さんが届け出たいと思ったら、まずは警察に相談していただければと思います。
子どもが性被害に遭ってしまったら、どのような配慮が必要か

——子どもが性被害に遭ってしまった場合、保護者はどのようなことに配慮すればよいでしょうか。
櫻井:家で今までと同じような生活をさせてあげることですね。「辛かっただろうから、どっかに一緒に出かけよう」ということをされる保護者の方もいらっしゃいます。もちろん、それを子どもが望めばいいと思いますが、こういった被害に遭うことで子ども自身もとても疲れていますから、まずはゆっくり安心感のある生活をさせてあげることが大事ですね。
インターネットやオンラインゲームを「使うな」ではなく「うまく使う」
——好きなオンラインゲームやSNSなどを共通項に、インターネット上では簡単に悪い目的がある人と仲良くなれてしまう、という現状を考えると、そもそもスマホやゲームを使わせない方がいいのでは、と思う保護者の方も多そうです。
櫻井:そうですね。ただ、インターネットやゲームは子どもの居場所になっていることも確かですので、全部悪いということでは全然ないと思います。
特にリアルの生活に寂しさがある子どもほど、SNSに関係を求める側面もありますので、そこを全部絶ってしまうと、居場所がなくなってしまう子どももいると思います。「うまく使う」「うまく遊ぶ」「うまくやり取りする」ことはすごく大事だと思います。
——「使わせない」ではなく「うまく使う」ですね。
櫻井:はい。そして、うまく使うためには、親子でのルール作りが必要です。先にお話ししたように、ルールは親子の良好な関係の上に成り立ちますので、保護者の方はお子さんとの日々の関係作りに努めてほしいですね。
- POINTまとめ
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- 盗撮、自画撮りなど子どもと加害者が「接触」していない性被害も多い
- 「同じものが好き」を鍵に、インターネット上では簡単に信頼関係を構築できる
- インターネットを「使わない」ではなく「うまく使う」意識を
インタビュアー/ライター
石徹白 未亜- いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂







