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インタビュー
2025年05月08日

子どもがSNSで「なりすまし」をしている?加害者にならないために家族でできること

うちの子がSNSでなりすましなんてするわけないわ!

「普通の子」が普通になりすましをしているのじゃ!裁判になる事例もあるゾイ!

もくじ
荒生祐樹さんプロフィール荒生祐樹さんプロフィール

埼玉弁護士会所属(さいたまシティ法律事務所)。中小企業向けの法務(クレーマー、カスハラ)、SNSを使ったいじめやなりすましなど子ども同士のインターネット上でのトラブル対応にも力をいれている。
2020年8月 NHK「フェイクバスターズ」ひぼう中傷被害を減らすために VTR出演
2021年4月 こども六法ネクストおとなを動かす悩み相談クエスト(小学館・コラム漫画法律監修)
AbemaPrime「〝いじめ問題〟被害者の当事者が考える “本人・親・学校” 誰に責任が?」zoomにて出演

SNSなど、インターネット上で自分以外の人物のようにふるまう「なりすまし」。性別を偽ったり、有名人のふりをしたりする以外にも、身近な人物になりすましをするケースも増えており、子どもたちの間でも加害・被害が広がっています。未成年によるなりすましの実態や、法的な問題について、インターネット上のなりすましに詳しい弁護士の荒生祐樹さんにお話を伺いました。

事例から学ぶ、未成年による「なりすまし」

SNSなどで未成年が加害者、被害者となった実際のなりすまし事例についてお話を伺いました。衝撃のケースが続きます。

なりすまし①事例 YouTubeで中学生男子が元同級生になりすまし

なりすまし①事例 YouTubeで中学生男子が元同級生になりすまし

荒生:まず一つめの事例は、YouTubeを利用したパターンです。加害生徒は中学を卒業したあと、YouTubeのチャンネルを複数作り、それぞれのチャンネル名に元同級生の名前を使い、YouTubeチャンネルのトップ画像は元同級生の写真を掲載することで元同級生になりすましていました。

——どうやって発覚したのでしょうか?

荒生:被害生徒が自分になりすまして作られたYouTubeチャンネルの存在を知り、親御さんに相談をして、警察に行ったそうです。被害生徒が警察に可能性があると考えた同級生の名前を挙げ、警察が一人一人に問い合わせたところ、そのうちの1人が「自分がやりました」と話し、発覚しました。

なりすまし①後日談 適当なメールアドレスでアカウントを作ってしまい、削除できない!

荒生:YouTubeチャンネルは、作成した人がログインすれば、自分で削除できます。これはYouTubeに限らず、他のSNSも概ね一緒です。自分でアカウントや投稿内容を消せれば、まずは対処できます。
ですが、これも未成年の事例で非常によくあることなのですが、なりすましアカウントを作る際に、メールアドレスを捨てアド(※)のような適当なものを使い、パスワードも適当なものにしてしまっているため、アカウントを作成したときのメールアドレスもパスワードも、いざ消したいとなったときに思い出せず、アカウントにログインできなくなってしまっているんですね。

※捨てアド:捨てメールアドレス、の略。一時的な利用のために使うメールアドレスのこと。

——パスワードを忘れてしまったときは、登録の際に使ったメールアドレスを用いる「メール認証」で本人確認を行うサービスが多いですから、アカウントを作ったときのメールアドレスまで忘れてしまうと、ログインは難しくなるでしょうね。
(サービスによっては、電話番号認証など他の認証方法を使用していれば、ログイン可能な場合もあります)

荒生:はい。最近、そういった相談は多くなっています。そのためこのケースも、自分で作ったなりすましアカウントにログインができなくなり、自分自身でアカウントを消せなくなってしまったんです。

——このような場合、対処法はあるのでしょうか?

荒生:本人で消せない場合は、YouTubeの規約に違反しているということで通報するか、もしくは被害生徒が削除仮処分などの裁判手続きを行うことが考えられます。今回、弁護士である私が関与したのはこの場面です。ただし、ケースによっては、投稿者が誰か判明していると、SNSプラットフォーム側で削除の対応がされないということもあると聞いています。その理由は、投稿者が判明している場合はプラットフォームではなく、あくまで投稿者が削除すべきである、という考え方が背景にあるようです。したがって、自分の投稿であっても、ログインができない状態に陥った場合、削除が難しいなどの深刻な事態を招く可能性があります。

なりすまし②事例 Xで高校生女子が同級生になりすまし

なりすまし②事例 Xで高校生女子が同級生になりすまし

荒生:次のなりすまし事例はXを利用したパターンです。こちらは、高校生女子が同級生の画像を勝手に使い、同級生になりすましたXのアカウントを開設していました。そしてXで「あいつ(別の同級生の本名)ムカつく」などの悪口を投稿し、なりすまされた同級生(被害者)の評価を貶めていました。
さらに「私の家の写真だよ」と被害生徒の実際の家の画像までも投稿していました。こちらは被害生徒の親御さんからの相談でした。

——家の写真は悪質ですね……。

荒生:こちらは第三者の同級生が、被害生徒に「こんなアカウントがあるんだけど」と教えてくれたことで発覚しました。

なりすまし②後日談 スマホは学校の管轄外!学校が動くことはレアケース

荒生:こちらのケースは学校が動き、学校が学年集会で呼び掛けたところ、加害生徒が名乗り出ました。
ですが、学校がここまで介入してくれるのは珍しいかもしれません。今や、ほとんどの学校では校内のスマホ利用を禁止していて、「スマホ関係のトラブルは学校外のことなので、学校では関与しない」という方針を取る学校もあります。
このケースも「なりすまし①YouTube」と同様に加害生徒がXのID、パスワードを適当に作っていたので、ID、パスワードを忘れてしまい、自力で削除ができなくなってしまいました。

——「適当にアカウントを作ってしまって消せない」パターンは本当に多いのですね。

荒生:はい。また、被害生徒からXのサポートに「勝手に自分の顔写真や家の写真を載せられています。削除してほしい。」と通報もしていたのですが対応してもらえず、私のところに相談がありました。

なりすまし③事例 見ず知らずの人になりすまされた女子高生

荒生:今までは同級生など身近な相手が加害者・被害者でしたが、全く面識のない人になりすまされた事例もあります。
被害生徒は17歳の女子高生で、XやInstagramなどで日常の様子を投稿していました。そうしたところ、投稿にあった女子高生の画像を被害生徒と全く面識のない男性が利用して、被害生徒になりすましたアカウントを作成し、「いいね💛をいっぱいしてくれたら、○○するよ」などと、性的な内容の投稿をしていました。
そして、この投稿がバズったことで、被害生徒の同級生が投稿を見つけ、なりすましが発覚しました。犯人は40代男性で、刑事事件にもなりました。

未成年による「なりすまし」の特徴

様々な事例がありましたが、未成年によるなりすましの特徴を整理していきましょう。さらに驚きの内容です。

軽い動機で普通の子が気軽になりすましをする

——あらためてですが、未成年によるなりすましの特徴にはどのようなものがあるでしょうか。

荒生:まず「被害生徒の画像を使うこと」と「被害生徒と加害生徒の関係が近い」ことですね。面識のない人になりすますのは例外的なもので、未成年によるなりすましの多くは学校、もしくは塾や習い事などで面識のある人物です。ですので、学校が間に入り、たどっていくと、誰がやったのかはある程度わかるのではないかと思います。また、画像は卒業アルバムの写真をスマホで撮影して、アイコンなどに使うのがよくあるパターンです。
そのほかに「動機がそれほど大したことないように思える」のも未成年のなりすましの特徴です。
大人のなりすましの場合、なりすまし犯は、なりすます相手の社会的評価を貶めたいという強い動機があることが一つの特徴です。例えば夫婦関係のトラブルでは、奥さんが夫の浮気相手になりすましたSNSのアカウントを作成し、「私は○○株式会社□□部の▲▲(なりすまし相手)です。部長の○○(夫の名前)さんと半年前から不倫しています」などと投稿し、報復を狙っていることもあります。

——非常に重いですね……。

荒生:はい。一方でなりすまし犯が未成年の場合、「相手の評価を貶めたい」という点は同じですが、動機が軽い印象があります。
なりすましをする以上、相手に対し何か思うところはあったのでしょうけれど、トラブル自体、それほど深刻さを感じさせるものがあまりなく、なぜ「この問題」でわざわざ「なりすまし」を選択したのか、中々理解が追いつかないケースが少なくないように思えます。
加害生徒や、そのご家族から話も聞きますが、加害生徒も何かすごく反抗的であったり……というわけではなく、普通の子ども、普通のご家庭という印象が多いです。

——普通に見える子どもが、同級生など面識ある人になりすまして、家や顔写真を投稿するという悪質さがうまくつながらないです……。

荒生:あまり罪悪感を覚えずにやってしまっているのかなとは思いますね。「なりすましアカウントを作って実在の人物になりすます」のはさほど難しくありませんから。捨てアドも含め、メールアドレスさえあれば多くのSNSアカウントは作れてしまいますから。 なお、同じSNSでもLINEは電話番号が必要なので、ほかのSNSよりは敷居が高くなりますから「LINEでなりすまされた」という相談は受けたことがないです。

なりすましアカウントを、なりすました本人も忘れている

なりすましアカウントを、なりすました本人も忘れている

荒生:なお先ほど紹介した「なりすまし①YouTube」の場合、加害生徒はなりすましアカウントを作った時点で満足してしまったようで、更新もしていなかったんです。本当に「一時の感情」なんですね。
なお、なりすましではない暴力などを伴う少年事件ですと、加害生徒に、「なぜそんなことをしたの?」と質問すると「だってあいつ(被害生徒)があんなことをしたんだ!」と、相手に対しての強い感情をむき出しにして、こちらに食って掛かかってくるケースもあるんです。

——したことの是非はともかく、「強い動機がある」という点ではまだ納得感がありますね。

荒生:一方なりすましの場合、加害生徒にそこまで被害生徒に対する深い思いがないように見えるんですね。「相手のことが嫌いだったの?相手にひどいことをされたの?」と聞いてみると、確かに、「嫌な出来事はあった」と答える子どもがほとんどです。ただ、それがインターネット上でなりすまして相手の評価を貶めるほどの出来事だったかと言われると、大人の感覚では理解が追いつかないケースが多いかもしれません。
やはり未成年によるなりすましは「簡単にできてしまう」という、ハードルの低さが大きいと思います。

「なりすまし」をするのは簡単、後始末はとても大変!

我が子のなりすましアカウントを見つけた場合、どう削除していけばいいか尋ねました。なりすましをするのはとても簡単ですが、後始末はとても大変です……。

なりすましアカウントの消し方① 加害者が分かるか

荒生:なりすましアカウントの消し方ですが、まず「なりすましの加害者である投稿者がわかるかどうか」で大きく分かれます。
加害生徒が分かるのであれば、その人に削除を求めていきます。間に学校の先生や弁護士に入ってもらうケースもあるかもしれません。

なりすましアカウントの消し方② SNS運営事業者への通報

荒生:ですが、「投稿者がわからない」ケースもあると思います。その場合、掲載されたサイト(SNSなど)の運営事業者に削除依頼をすることができます。XやInstagramでは、なりすましの通報フォームも用意されています。 ただ、「なりすまし②X」でもお話しましたが、削除申請を出しても運営事業者が動いてくれないケースも多いです。そのような場合、最終手段として、裁判を起こして運営事業者に削除を求めていく形となります。

なりすましアカウントの消し方③ SNS運営事業者に裁判を起こす

——SNS運営事業者が通報で消してくれなくても、裁判をすれば、削除されることもあるのですね。

荒生:はい。裁判を起こすと、裁判所を通じ、XもInstagramも代理人弁護士が対応し、一通りの反論を行った後は、最終的には裁判所の判断に委ねられます。
裁判所は、明らかに虚偽である内容など名誉毀損が認められたり、顔写真が無断で使われていたりする肖像権侵害など、権利侵害の明白性が認められるのであれば、削除を命じますので、その後、事業者側が削除に応じます。
ただ正直、裁判をする負担は大きいです。なりすましをするのは簡単ですが、その後始末には時間も手間もかかります。

SNS運営事業者を相手とする裁判は、個人でもできる?

SNS運営事業者を相手とする裁判は、個人でもできる?

——SNS運営事業者を相手にした裁判ですが、弁護士を介さず、個人で裁判をすることは可能でしょうか?

荒生:手続き上は可能ですが、現実的には難しいと思います。
裁判は法的手続きである以上、「なりすまされて嫌なので消してください」ということではなく、「この投稿は被害者である私の権利を侵害しています」と主張をしなくてはいけません。
また、「なりすましアカウントが虚偽の投稿をしたから権利が侵害された」では足りず、例えば名誉毀損の主張をするのであれば、「なりすましアカウントの投稿により第三者にはこのような印象を与え、それにより私の社会的評価が下がって名誉が毀損された」という説明まで行う必要があります。
また、SNS運営事業者側にも代理人の弁護士が出てきますし、事業者側からの反論も想定されます。事業者側からの反論を想定し、有効な主張を行うためにも、弁護士が代理人となった方がよいですし、また、弁護士同士のほうが互いの主張を理解する上でもスムーズかなとは思います。

——感情の世界ではなく法の世界による裁判の判断を仰ぐ以上、被害者が当事者として、SNS運営事業者の代理人弁護士と法的知識を踏まえて主張立証を行う、というのはかなりハードルが高いでしょうね……。

気になる慰謝料の相場は?

——なりすまされて、被害者側が投稿などの削除のための裁判をSNS運営事業者側に起こしたとき、加害者が分かっているのならば、その裁判の費用負担を加害者に求めることができるのでしょうか?

荒生:はい。削除の裁判は、被害者側が行うことになります。したがって、加害者側との間で、裁判費用の負担についてあらかじめ合意しておく、ということはありますね。ただ、先程お話したとおり、投稿者が判明している場合、まずは投稿者に削除を求めるべきであり、削除を求めるのはSNS運営事業者ではないという理由で、裁判も難航する場面がありえます。

——裁判費用とは別に、被害者が加害者側に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。

荒生:できます。ですが、なりすましで、顔写真や家の写真が載せられるというのは非常に嫌なことではあるのですが、それが慰謝料として一般的に高額になるかというと、実はそんなに高額にはならないんですよね。仮に裁判になっても、数万円とか10万円くらいで決着することもあります。

——心労や手間のわりにやりきれないですね……。揉めそうです。

荒生:そうですね。被害生徒、加害生徒の保護者の間で揉めてしまい、お互い代理人がついてやり取りするケースもありますね。
ですが、「なりすまし①YouTube」では、被害側の生徒、保護者は「消してくれるならそれで構いません」だけで収まりました。

——どう思うかは相手次第ですから、読めないところではありますね。

「なりすまし」は法的にどう解釈される?

あらためて、法的になりすましの問題を整理しましょう。

民事、刑事上でのなりすましの問題点

荒生:なりすましの法的な問題は、民事、刑事と分け、以下の通りになります。

民事 肖像権の侵害 顔写真、動画などを無断に利用する
プライバシー権の侵害 自宅写真など個人を特定できる情報を無断でアップロード・公開する
刑事 名誉毀損 上記の事例③のケース、なりすまし犯が被害者の社会的評価を貶める投稿を行ったり、又は、なりすまし犯が第三者を誹謗中傷する投稿を行うことによって、被害者が「そういう人物だと思われてしまう」
侮辱 なりすまし犯が被害者の人格を攻撃するなどの中傷を行う

——刑事事件になる可能性もあるということですね。

荒生:名誉毀損や侮辱などの犯罪の構成要件には当てはまることもあるので、「そういう可能性もある」ということは理解しておかないといけないですよね。

手軽にできるなりすましに、保護者はどう対処する?

——子どもがあまりに気軽になりすましをしている現状に衝撃とともに、気軽さゆえに保護者がどう対応すればいいか、は難しさも感じます。

荒生:実際、相談に来られるご家族を見ていても、お子さんの方がスマホに詳しいんですよね。本来であれば、SNSの利用については親が子どもに対して話をしなければいけないと思いますが、親が置き去りにされている感じもあります。お父さん、お母さん方も今の実情というものを常にアップデートしていく、という姿勢を持っていただけるといいですね。

——ぜひこの記事を親子で読んで、話し合ってほしいですね。

POINTまとめ
  • 簡単に「なりすまし」ができてしまうので、気軽になりすます子どもが続出!
  • 適当なIDとパスワードでなりすましアカウントを作って忘れると、消せなくなる!
  • 「なりすまし」をするのは簡単、後始末はとても大変!

POINTを意識して約束を作ってみる

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石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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