ゲームを楽に進めたいから、レベルが上がっているアカウントをネットで買おうっと!
待て待て!そのお金は犯罪組織の資金源になる可能性があるゾイ!買った人も逮捕される危険なことなのジャ!
- 井澤雄介さん
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2012年警察庁入庁。警察庁で法改正業務や都道府県警察の指導業務などに携わり、2025年3月から、神奈川県警察本部生活安全部サイバー犯罪捜査課長兼サイバーセキュリティ対策本部副本部長として、サイバー犯罪の捜査の指揮に当たる。
「RMT(リアルマネートレード)」とは、ゲームのアイテムやキャラクター、アカウントなどを現実のお金で取引する行為です。個人間取引や仲介サイトを通じて売買が行われており、一見すると便利な仕組みに見えますが、実際には多くのリスクや問題が潜んでいます。今回は、神奈川県警察の井澤雄介さんに捜査の現場から見たRMTの実態についてお話を伺いました。
RMTとはなに?仕組みをくわしく解説
RMTとは、そもそも何なのでしょうか?また、どのように取引されているのでしょうか?
RMTとは、ゲーム上のものを現実のお金で売買すること

井澤:RMT(リアルマネートレード)とは、実際の現実世界のお金(リアルマネー)で、ゲームなどオンライン上に存在するもの(ゲームアカウント、ゲーム内アイテム、ゲーム内通貨など)を売買(トレード)することです。
ゲーム会社が関与しないところで、レベルを最大限まで強化したキャラクターを持っているゲームアカウントや、ゲームを有利に進められるレアアイテムなどがトレードされています。
——本来ゲームキャラクターのレベルアップは、モンスターと戦うなど地道に自分で積み上げていくものですが、そういったことが面倒だからと、すでに強いキャラクターを持ったアカウントやレアアイテムを購入してしまうのですね。
インターネット上で簡単に見つけられる、RMTの3つの販売形式
井澤:RMTにはさまざまな問題があるのですが、その前に、RMTが実際どのように行われているか説明しますね。RMTの販売形式は大きく分けて3つの販売形式があります。
①SNSを利用して個人間取引 | SNS上で「レベル99まで強化したアカウントを〇〇円で買いませんか」などと投稿して、購入希望者とDMでやりとりをして取引を行う。 |
②RMT仲介サイトを利用 | RMTの取引ができる「場所」を提供している仲介サイトがあり、そこで売りたい人、買いたい人が取引を行う。フリマアプリのような形態。 |
③RMT業者が自ら販売 | RMT業者が仕入れたアカウントやゲーム内アイテムを、業者自らECサイトを作成し販売する。 |
——「ゲームアカウント 売買 RMT」などで検索すると、これらに該当するサイトやSNSを簡単に目にすることができますね。
井澤:神奈川県警では③にあたる、RMT業者がアカウントやアイテムを仕入れて販売しているケースを2024年に検挙しています。
「課金代行」もRMTの一種!絶対にやめて!
井澤:「レベルを上げたゲームのキャラクターなどを○○円で販売する」というのが、よくあるRMTですが、それ以外に「課金代行」というものもあります。課金代行もRMTの一種です。
「課金代行」において、RMT業者は以下のことを行っています。

① | RMT業者は、「ゲーム内の高価なアイテムAを通常の半額で購入できます!」とインターネット上で宣伝する。 |
② | 欲しいと思った利用者は、RMT業者に購入料金を支払い、自分のゲームアカウントのIDとパスワードを渡す。 |
③ | RMT業者は、②で受け取ったIDでゲームにログインし、クレジットカードでアイテムAを通常価格で購入する。 |
④ | 購入後、利用者にゲームアカウントのIDとパスワードを返す。 |
——あれ?この流れですと「RMTの業者が、利用者のアカウントを使って代わりに課金しただけ」ですよね。RMT業者は何も儲けが出ていないどころか、定価で買ったものを半額相当で販売してしまっていますから、損をしていませんか?
井澤:はい。どうやってこれでRMT業者が儲けを出すかというと、犯罪が深く関わっているんです。③の課金時にRMT業者が使うクレジットカードというのは、例えば、フィッシングサイトなどによって不正に入手した赤の他人のクレジットカードなんです。なので、支払い請求はクレジットカードの持ち主に行くことになり、RMT業者は一銭も払わないで、アイテムAの販売価格の半額相当の現金を手に入れることができるのです。
これが、課金代行の仕組みです。
——これはもう、個人同士の取引などという域をはるかに超えていますよね。
井澤:はい。こういったことができるのはプロの犯罪者、犯罪組織なんです。
このような犯罪組織は、言葉巧みに「課金代行はRMTじゃないから大丈夫」と言うこともありますが、課金代行もRMTです。とても危険な行為なんです。
——「課金代行は問題ない」という犯罪組織の言葉を信じて、騙されてはいけませんね。
闇バイトでよく聞いた「トクリュウ」がRMTにも!

——RMTは犯罪組織が関わるほどのことだったなんて、驚きです。
井澤:そうなんです。今の犯罪組織は「匿名流動型犯罪グループ(トクリュウ)」という形をとることが多いです。SNSで実行者を募り、実際には顔も名前も知らない人たち同士で、足がつかないよう犯罪を分業するスタイルです。
RMTでも「クレジットカードを不正に入手する担当」、「RMTの取引をする担当」、と分業化されていると考えられます。
——「トクリュウ」という言葉は闇バイトの事件やニュースでよく聞きますが、RMTにも関係しているのですね。
RMTを利用して、犯罪組織はマネーロンダリングをしている
井澤:RMT業者は不正に入手したクレジットカードでゲームアイテムなどを購入、販売し、それを買ったRMT利用者からお金を支払ってもらうことで、現金を手にすることができます。この一連の流れはマネーロンダリング(不正に得た資金の汚れを消したように見せかける「資金洗浄」)と呼ばれます。
——ゲームが、犯罪組織が金銭を稼ぐための手段やマネーロンダリングの手段として使われているなんて、恐ろしいですね。
井澤:はい。RMT利用者は、知らない間にマネーロンダリングに加担し、犯罪の片棒を担ぐことにもなりかねないのです。
RMTは犯罪組織から見てもラクな犯罪
井澤:不正な手段で他人のクレジットカードを入手した犯罪組織は、なんとかそれを現金化したいんです。RMT以外にも、高額なゲーム機などを購入し転売する方法もあります。
実際のモノの転売はお店の防犯カメラに映ったりしますから足がつきやすい。ですが、RMTなら全部インターネット上で完結できるので、犯罪組織たちも足がつきづらいんですね。
——犯罪者にしてみてもRMTは「やりやすい」「足がつきづらい」犯罪なのですね。
RMTはなぜいけないの?利用したら逮捕される!?
犯罪組織の資金源にもなりうるRMT。当然、絶対に手を出してはいけないのですが、RMTを利用すると、どういったペナルティや罪に問われることがあるのかを考えます。
アカウントの利用停止!ほぼ全てのゲームで利用規約違反
井澤:RMTには様々な問題があります。そのため、ほとんどのオンラインゲームの利用規約では、RMT行為を禁止しています。
RMTはゲーム会社の正規のルートではない手段でアイテムなどを入手しますから、本来ゲーム会社が得られるはずの売り上げも減りますし、ゲーム会社が想定していたゲームバランスが崩れてしまうことも懸念されます。
——利用規約違反なので、RMTを利用していることが発覚した場合、ゲームアカウントの利用停止(BANとも言われる)にもなりますね。
「逮捕」の可能性あり! 刑事事件になる犯罪行為

井澤:そして、RMT行為は、ゲーム会社の利用規約違反にとどまらず、刑事事件になる(犯罪になる、逮捕される)可能性もあることは、今回特に伝えたいですね。
——犯罪になる、ということは法律に違反しているんですよね。
井澤:はい。2024年に神奈川県警で手掛けた事件では、RMT業者を「商標法違反」等として検挙しました。10年以下の拘禁刑等となる重い罪です。
購入者も逮捕!RMT業者だけでなく、RMT利用者も罪に問われる
井澤:また、神奈川県警の事件ではありませんが、RMT業者だけでなく、RMTを利用した人も「電子計算機使用詐欺」罪に問われたこともあります。
——RMT利用者も罪に問われるんですか!
井澤:はい。例えば正規の価格に対して、異常な安値でゲーム内通貨やアイテムがRMTサイトで売られていたら、そのゲームのユーザーならば「これは何らかの不正な手段で得られたものだろう」と認識できますよね。
——たしかに「ほんとに何も知らなかったんです」と、とぼけるには無理がありますよね。
井澤:怪しいにも関わらず、お金を払ってRMT業者から購入した、ということで、「電子計算機使用詐欺の”共犯”である」と見なされるわけです。実際にRMTの利用者が、逮捕、起訴されて裁判になり、有罪判決が出た事例もあります。
RMT業者の全てとは言いませんが、多くが何らかの犯罪行為に関わっていると考えられます。 不正に入手したクレジットカードや口座の売買なども平気で行うような人たちであり、危険な犯罪の片棒を担ぐことになりかねないことは忘れないでおきたいですね。
そして、そもそもですが、犯罪行為に関わっているような人とRMTの取引をして、ちゃんと約束した取引をしてもらえるかも疑わしいです。現に、お金や長年育ててきたゲームのアカウントを奪われただけで終わり、という事例も発生しています。
——RMTを通じて犯罪組織と接点を持ってしまう、というのも極めて危険ですよね。ある意味、犯罪組織に「おいしい話につられてしまう人である」という情報を提供してしまっているようなものですから。
損害賠償が発生!逮捕だけでは終わらない
井澤:そして、RMTにおいて使われた不正に入手したクレジットカードですが、これは最終的にクレジットカードの加盟店が被害を受けることになります。当然そのままでは終わらず、加盟店からRMTの利用者に対して、損害賠償を求められることもあり得るでしょう。
——RMTはゲーム会社の利用規約違反にとどまらず、刑事上の問題(逮捕・犯罪)や、民事上の問題(損害賠償)にも絡んでくるのですね。
未成年だからお手柔らかに……とはならない!
——RMTを利用したのが未成年の場合、警察の捜査において成人との違いはあるのでしょうか。
井澤:警察がすることは大人でも未成年でも変わりません。犯罪があれば必要な捜査を行います。
未成年であっても、ある朝、自宅に警察が来て「捜索します」とパソコンやスマホが押収されるケースもあります。「未成年は逮捕してはいけない」というわけではありませんので、14歳以上であれば、逮捕されることもあり得ます。
「RMTで楽にゲームをしたい」という安易な考えで、家族をはじめ周囲の人に多大な迷惑をかける可能性があることは覚えておいてほしいですね。
なお、先ほどお話した「損害賠償」については、未成年であっても、責任能力があれば、大人同様に請求されます。
子どもがRMTに関わったらどうする?関わらないために親ができること
とても危険なRMTですが、ネットで「RMT」「課金代行」と調べると簡単に目にしてしまうのも事実です。親としてできる対策はあるのでしょうか?
子どもがRMTに関わる被害に遭った場合

——子どもがRMTに関わる被害に遭ってしまった場合、保護者はどこに相談すればいいのでしょうか。
井澤:まずは、最寄りの警察にご相談ください。
相談の際、RMT業者とやり取りをしたダイレクトメッセージやメールなどは全て保存し、いつどんなことがあったのか時系列で整理いただくと良いでしょう。
——いきなり警察は敷居が高いという場合、ほかに相談できそうな窓口はありますか?
井澤:消費者トラブルの窓口である消費生活センターも選択肢の一つです。ですが、まずは保護者の方がしっかりとお子さんからお話を聞いてあげるということがスタートかと思います。
子どもがRMTに関わることを防ぐ ①日頃から危険性を伝える
——子どもがRMTに関わる前に防ぎたいものですが、予防としてできることはあるでしょうか。
井澤:保護者の方には、まずお子さんが何のゲームで遊んでいるのか把握していただきたいですね。知っていると知らないとでは全然違います。
その上で、お子さんと「RMTをインターネットで目にすることもあると思うけれど、RMTは犯罪につながる可能性が高く、非常に危険な行為なんだよ」と日頃から伝えてほしいですね。
特に子どもの場合、「周りの友達がやっているから、大丈夫だろう」となりかねません。悪いことだと思わないまま、「何が悪いの?」くらいの認識でいるならば、軽い気持ちでRMTを利用してしまうでしょう。
——この記事も、ぜひ親子で何度も読んでほしいですね。
子どもがRMTに関わることを防ぐ ②管理機能の活用
井澤:そして注意喚起だけでなく、パソコンやスマートフォンのフィルタリング機能、ペアレンタルコントロール機能も活用したいですね。こういった機能を利用すれば、そもそもお子さんがRMTサイトにアクセスできないようにできます。
——「注意喚起」「管理機能の活用」の両軸で取り組むことが大切ですね。
あらためて、やってはいけないRMT!
井澤:あらためてまとめになりますが、ゲーム会社ではRMTを禁止しており、RMTは「ルールを破っている、悪いことである」と認識いただきたいですね。
さらに、ゲーム会社の利用規約違反に限らず、犯罪になる可能性もあります。自分自身が罪に問われなくても、犯罪組織のマネーロンダリングに結果的に加担してしまうことにも繋がりかねません。
「RMTは良くないこと」だと認識して、ゲームを楽しく、ルールを守って遊んでいただきたいです。
- POINTまとめ
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- RMTは犯罪組織の資金源になっているかも?絶対にやってはダメ!
- RMTはアカウントの利用停止、逮捕、損害賠償の可能性あり
- 親は「子どもに繰り返し伝える」と「管理機能の活用」の両軸で対処したい
インタビュアー/ライター
石徹白 未亜- いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂