子どもがゲームのチートで盛り上がっているみたいなんだけど、これって何か問題あるの?
子どものいたずらや悪ふざけではすまんゾイ!逮捕や高額の損害賠償もありうる、一家を揺るがす大問題じゃ!!
- 中島博之さんプロフィール
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衆議院議員秘書を経て2011年弁護士登録。社会問題となったファスト映画の摘発や中国から運営されていた巨大漫画海賊版サイトの取締に協力するなどコンテンツ保護活動を行っている。代理人弁護士としてではなく権利者本人として海賊版と戦えるよう、漫画原作者として『弁護士・亜蘭陸法は漫画家になりたい』を週刊連載し、漫画全6巻が発売中。
「チート(cheat)」とは、「だます/ごまかし/ズル」といった意味の言葉です。ただ近年では「チートディ(減量中の人がはめをはずして食べていい日)」や「チート級(ズルいくらい良い)」など、本来の意味とは異なった場面で使われることもあります。
ですが、ゲームにおける「チート」は、ゲーム会社のデータやプログラムを不正に改変する犯罪行為です。今回はゲームやメディア関連のトラブルに詳しい東京フレックス法律事務所の中島博之弁護士に、法律の視点から「チート行為」の実態についてお話を伺いました。
ゲームの「チート」ってどんな行為?
ゲームにおける、「チート」とはどういった行為なのでしょうか?また、ゲーム中でチート行為をする「チーター」の実態についても伺いました。
ゲーム会社側の弁護士として、チート事件を担当

——中島さんは弁護士として、ゲームに関するどのようなお仕事を担当されてきたのでしょうか。
中島:2023年に文化庁が、政府として初めて「ゲーム実況・配信に関する著作権セミナー」を実施したのですが、そちらで講師を担当しました。
また、同年にはビジュアルノベルゲームで、ゲーム上のガイドラインで禁止しているエンディングまでの動画を配信した人が逮捕されました。違法なゲーム配信が日本で初めて摘発された事件でした。この事件をゲーム会社側の弁護士として担当しています。
過去にはオンラインゲームでチート行為を行った人物の摘発協力や、チート行為を拡散した人物への損害賠償請求訴訟なども担当しました。
ゲーム会社のプログラムを書き換える違法行為=チート
——ゲームにおけるチートとは、どのような行為なのでしょうか?
中島:チートはゲーム会社のゲームプログラムを不正に改変し、ゲームを有利に進める行為です。これは複数の法律に反する行為です。(対象の法律の説明は後述)
チート行為と裏技の違いとは?
——いわゆる「裏技」とチートは何が違うのでしょうか?
中島:裏技は、ゲームのプログラムを改変せず、そのゲームの開発側が意図しない挙動などを利用してゲームを攻略するものと理解されることが多いと思います。
ですので「違法ならチート、合法なら裏技」というのがわかりやすいかもしれません。ですが最近のゲームの中には、開発側が意図しない挙動でゲームを有利に進めること(=裏技を使うこと)をゲーム会社の利用規約違反だと定めているケースもあったりしますね。
チート=違法=絶対ダメ!で良い
——チート、という言葉は「ズルいくらい良い」的な、本来とは異なる意味でも使われることもあり、ややこしいのですが、少なくとも「ゲームにおけるチート」は「違法行為」であり、保護者としては「絶対ダメ!」という認識、対応でいいでしょうか。
中島:そうですね。そう決め打ちした方がわかりやすいかもしれません。
チートをすると、どうなるのか? ①逮捕もありうる犯罪行為
違法行為であるチートをすると、その後どうなってしまうのでしょうか?現実はかなり厳しいようです!
チートは複数の法律違反になる犯罪行為、逮捕もある!
中島:先にチート行為は違法行為とお話しましたが、具体的には刑法の「私電磁記録不正作出・同供用罪」「電子計算機損壊等業務妨害罪」や著作権法の「著作権侵害」に抵触することが多いですね。
チート行為をするには、ゲーム会社のサーバーに不正なプログラムを送り、改変する必要があります。不正なプログラムを作ると「私電磁記録不正作出罪」になり、実際に使うと「供用罪」、さらに、ゲーム会社の業務が妨害されると「電子計算機損壊等業務妨害罪」にもあたります。
また、ゲーム会社のもつプログラムのソースコードは「著作物」にあたることが多く、それを勝手に改変するのは「著作権侵害」になります。
——犯罪であり、逮捕の可能性もありえるのですね。
※各法律の処罰について
・私電磁記録不正作出・同供用罪…5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
・電子計算機損壊等業務妨害罪…5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
・著作権侵害…10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、または併科
チートは、成人よりむしろ未成年者が行っている?
——しかし「ゲーム会社のプログラムコードを書き換える」ということは、子どもにはとてもできないのではと思うのですが……?
中島:それが、私が担当してきた事案のチーターは、成人より未成年の方が多かったですね。社会人になると、失うものを考えてとどまる人もいると思いますが、未成年だとそこまで考えが及ばないのでしょう。なお、私が担当した事案では、未成年だったチーターは皆男性で、一番若い方は15歳でした。
チートをする方法 掲示板で情報交換

中島:どうやってチート行為をするかですが、一般的にはエミュレーターソフト(スマホをパソコンで起動するソフト)を使い、そこでゲームの各種パラメーターを変えることが多いのではと思います。
パソコンなどの環境や知識が必要ですが、それらが揃っていれば、子どもでもできてしまいます。実はオンライン掲示板などで、チートに関する情報交換が行われていて、思っているより簡単に情報を手に入れることができるんです。
——「チート 掲示板」でネット検索すると多くのサイトがヒットしますね。
中島:掲示板で大勢がチートの方法について意見を交わしていると「これは犯罪行為だ」という意識が生まれにくいのではと思います。
また、チート目的でなく普通にゲームを攻略するためにインターネットで情報を探していたら、チート行為のサイトを見かけ、そこから始めてしまったケースも考えられます。
チートをする方法 チートツールを買う
中島:チートは自分でパラメーターを改変する以外に、「チート用のツールを購入する」方法もあります。チートツールを販売している書き込みもSNS上で見かけますね。
ただ、こういったチートツール販売の書き込みのほとんどは、実態のない詐欺だと思いますが、本当に稼働するツールが販売されているケースもあります。
——SNSで普通に売られていると「買っても良いもの」と子どもは勘違いしかねないですよね。
チートをすると、どうなるのか? ②多額の損害賠償が発生
「犯罪行為としてのチート」の問題に触れてきましたが、チート行為の影響はそれだけにとどまりません。
ゲーム会社から高額の損害賠償を請求される

中島:さらにチート行為は「民法上の不法行為」として、ゲーム会社から多額の損害賠償を請求されるケースもあります。
——でも、未成年の場合、本人に責任能力がないケースも多いですよね。
中島:その場合、監督義務をおっている者(多くの場合は保護者)が代わりに責任を負うことも、民法上で決まっています。
先ほど15歳のチーターについてお話しましたが、この事案では損害賠償が必要となり、保護者の方がゲーム会社に対し、分割でお金を今も支払っています。中には損害賠償の金額が1000万円になったケースもありました。
高額の損害賠償が発生する理由
——損害賠償の金額は子どものしたことだからお手柔らかに、減額して、とはならないのでしょうか?
中島:なりません。
と言いますのも、チート行為によってオンラインゲームのバランスが大きく損なわれ、チートをした人物やその仲間が圧倒的に有利になる、良いアイテムを持っているような場合もあります。そうなった場合、ゲーム会社はゲームをチートされる前の状態に戻さなくてはなりません。
多数のプレイヤーのアイテムを回収したり、ゲームの中の経済を巻き戻す場合、大規模なシステムメンテナンスが必要になり、数日間すべてのプレイヤーがゲームできなくなることさえもありえます。この間ゲーム会社の収益も減りますし、待たされている間にゲームを辞めてしまう人も出てくるでしょう。
——ゲーム会社にしてみれば、とんでもない業務妨害ですね。
中島:ゲーム会社が中小企業の場合、倒産するレベルの損害を受けることになります。
ですので、チート行為はチートを行った子どもだけでなく、損害賠償という形で、家族全員に大きな影響が及ぶ、ということを子どもも保護者も理解することが大切です。
子どものチート行為を防ぐために
子どものチート行為を防ぐために保護者ができることについて考えます。
チート行為に保護者が気付きにくい理由

——保護者はどんなきっかけで子どものチート行為に気づくのでしょうか。
中島:警察が家に来てはじめて気づくケースが多いです。 チート行為はパソコンがあれば、自分の部屋でできてしまいますから、保護者が気づきにくいんですよね。
——チート行為で警察沙汰になってしまった子どもたちはその後、どんな様子なのでしょうか。
中島:私はゲーム会社側の弁護士として関わっていたのですが、保護者からはひたすら謝られて、子ども本人の謝罪の手紙も受け取ったこともあります。ですが、正直ここまで事態が進んでしまうと私としてもできることはなく、謝罪をいただいても「あとは警察や家庭裁判所にお任せしています」としか言えないんです。
——そうなってからではもう遅いのですね……。
チート行為が軽く考えられがちな理由
——違法であり、多額の損害賠償が請求される可能性もあるのに、チート行為はどうも「いたずら」のような、軽くとらえられがちなところがありますよね。
中島:そうですね。例えば「収穫前の果物が泥棒に盗まれたら、育ててきた農家さんがかわいそう」というのは子どもには伝わりやすいのではと思います。
一方で、チート行為や、海賊版の漫画やアニメをスマホで視聴することは、果物などの物理的なモノがなく、また、自室で完結できるため、他人の目が届きにくく、特に子どもは物事の大きさを実感しづらい点があるのではと思います。
しかし海賊版で漫画を読まれたら、漫画家、出版社の人や本屋さんもお金が入ってきませんし、チート行為をされたらゲーム会社の人にお金が入ってこなくなります。「果物が盗まれて農家さんにお金が入ってこない」ことと、起きていることは同じです。
ゲームも漫画もアニメも、その奥には作った生身の人間がいることを想像してほしい、と若年層の方にはよくお話しています。
子どものチート行為を防ぐためにできること

——あらためてですが、子どものチート行為を防ぐために保護者ができることを教えてください。
中島:チート行為は①違法行為であることと、②多額の損害賠償を請求され本人だけではなく家族も巻き込む問題であるということは、きちんと子どもに伝えたいですね。
多額の損害賠償が発生するので、実際に保護者の問題でもあるのです。
——チートは「子どものいたずら」では済まない行為であることをまず保護者がしっかり認識する必要がありますね。
ゲームで悪いことをしないから、ゲームで遊べる
——お約束メイカーについての感想を教えてください。
中島:ちゃんと親子で約束することは非常に重要ですね。約束した以上、破ってはいけない、という一定の抑止力にはなりますから。
チートも含め、「ゲームで、何をしてはいけないのか」をちゃんと明確にして約束を結び、「ゲームでこれらの悪いことをしてはいけない、という上で、あなたはゲームで遊べるんだよ」と、お子さんに伝えることが健全な形かと思います。
- POINTまとめ
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- チートは違法行為!警察が家にやってくることも
- 1000万円の損害賠償が請求されたケースも
- チートは子どものいたずらでなく、一家を巻き込む一大事
インタビュアー/ライター
石徹白 未亜- いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂