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インタビュー
2024年5月31日

イヤホン・ヘッドホンの中は大音量?! ゲームをする家族の耳は大丈夫? 耳鼻科の先生が教える耳を守る方法

ゲームをしすぎたから、目を休めなきゃ!目をつぶって、音楽でも聴こうっと!

耳も休みたがっているゾイ!

もくじ
富田雅彦さん富田雅彦さんプロフィール

医学博士、耳鼻咽喉科専門医、学会認定めまい相談医。
新潟大学耳鼻咽喉科助教、長岡赤十字病院耳鼻咽喉科部長を経て、2019年に富田耳鼻科クリニックを開院し、多くの患者に関わる。登録者数10万人のYouTubeチャンネル「耳鼻科医富田のいいみみCh」を通して、病院に受診しないで済むように役に立つ医療情報を発信中。

デジタル機器の普及に伴い、イヤホンをしながらゲームや動画を見ている人をよく見かけます。さらに、デジタル機器の使用の低年齢化に伴って、子ども向けのイヤホンやヘッドホンも見るようになりました。イヤホンの使用は耳にどのような影響を与えているのでしょうか。今回は、富田耳鼻科クリニックの富田雅彦先生に、イヤホンが耳に与える影響や、耳の健康を保つ方法を伺います。

「難聴」「聞こえにくい」とき、耳の中はどうなっている?

目と同じくらい生活に欠かせない器官なのに、案外知らない耳のことについて聞きました。

音を感じる「毛」が抜けた、減った状態が難聴

富田さんインタビュー風景

――「難聴」って、よく聞く言葉ですが、音が聞き取りにくくなったとき、そもそも耳の中はどのような状態になっているのでしょうか。

富田: まず耳が音を聞くための仕組みについてお話しますね。耳の中には有毛細胞(ゆうもうさいぼう)という、毛のようなものが生えた神経細胞があります。耳の中に音が入ってくると、毛が揺れ、揺れることにより動きが電気信号になり、音を認識し、聞くことができます。
しかし大きな音を長時間聞いていると、有毛細胞が揺れ過ぎて、壊れてしまうのです。そうすると、もう音が入ってきても聞き取りにくくなり、最悪の場合聞き取れなくなってしまいます。実際に難聴の人の耳の中は、有毛細胞の毛がなくなっていたり、毛の密度が減っていたりします。

――壊れてしまった有毛細胞は、回復しないのでしょうか。

富田: 若ければ自然に復活することもありますが、年齢に応じて回復しにくくなっていきます。ですので、年齢とともに耳が遠い人が増えてくるのですね。ただ、回復する力は年齢以外に個人差もあります。

難聴を予防のためできること&難聴治療はどのように行われているの?

難聴予防のために、生活で気を付けることや、難聴が医療機関でどのように治療されているか尋ねました。

目と同様に、耳の休息も意識的に取りたい

目と同様に、耳の休息も意識的に取りたい

富田: 難聴の予防としては、まず「有毛細胞の毛が抜けることを防ぐ」ために、大きな音を長時間聞き続けないことです。そして「有毛細胞の毛がなくなってしまっても回復できるようにする」ためには血流を良くすることです。実際に、動脈硬化が進み血流の悪い方は難聴になりやすいことも分かっています。

――血流を良くするために生活でできることはありますか?

富田: 難聴予防において大切なのは首の後ろの血管からの血流であり、耳の外側の血流ではありません。なので、首回し、首を前後に動かすなど首の運動をするといいですね。
ほか、日々意識したいのは「耳を休ませること」です。ライブなど、大きな音を長時間聞いた次の日は、同じくらいの時間をかけて耳を休ませたいですね。耳栓を使っても良いでしょう。ほかにも音楽や動画を流したまま「寝落ち」しないことも大切です。
目はまぶたを閉じれば休めることができますが、「耳を休ませる」はかなり意識的に行う必要があります。

――目よりも耳は「疲れ」を感じにくいですもんね。

難聴治療のタイムリミットはわずか1か月!

――難聴になってしまった場合、医療機関ではどのような治療が行われるのでしょうか?

富田: 「難聴そのものに効く薬」は現時点ではありません。有毛細胞回復のために血流を良くしたり、有毛細胞が炎症を起こしている場合は炎症を抑える薬が処方されます。なお、壊れてしまった有毛細胞にこれらの対処を何もしないでいると、1か月で回復しなくなってしまうと言われています。

――そんなに早いのですね!

富田: ですので、耳の不調はすぐに医療機関にかかって欲しいですね。難聴になると、その不自由さをずっと抱えて生活することになるため、本当に最初が肝心です。

耳鼻科の先生に聞く、良いイヤホンの選び方

ゲームをするときにヘッドセットやイヤホンを使う子どもも増えています。イヤホンによる問題点はあるのか、また良いイヤホンの選び方について尋ねました。

イヤホンで難聴者は増えているのか?

――イヤホンの利用者が増えることで、難聴になる人が増えているのでしょうか。WHOは「10 億人以上の若年成人が、安全でないリスニング習慣によって、回避可能な永久的な難聴の危険にさらされています」と警鐘を鳴らしていますよね。

※WHO見解
https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/deafness-and-hearing-loss/

富田: 影響はこれから出てくるのかもしれませんが、現在診察していて、そこまで影響は感じないですね。なお、文献も調べてみたのですが、数年単位の長期間大きな音をイヤホンで習慣的に聞いている人は、聴力が落ちてしまうという研究結果もあるようです。

――例えば同じ音量をイヤホンで聞くのと、イヤホンを使わずに聞くのでは、イヤホンで聞いた方が耳に悪影響があったりするのでしょうか?

富田: 音量が同じなら、耳への影響は同じと考えていいですね。

必見!耳鼻科医おすすめのイヤホンとは?

必見!耳鼻科医おすすめのイヤホンとは?

――耳の健康という観点で、おすすめのイヤホンはあるでしょうか?

富田: ノイズキャンセリング機能は必須です。賑やかな場所と静かな場所で、同じ音量で話しかけたら、賑やかな場所では、静かな場所と比べると5割程度しか話の内容を理解できないと言われています。よって、賑やかな場所で何かを聞こうとすると、つい音量を上げたくなってしまうのです。
ですがノイズキャンセリング機能があれば、周囲の音を低減してくれます。電車の中など、賑やかな環境でイヤホンをする際はノイズキャンセリング機能を使えば、音量を上げすぎずにすみます。

――骨伝導のイヤホンはどうでしょうか。
※骨伝導…鼓膜を介さず、音の振動を直接骨に伝えることで音を聞く仕組み

富田: 骨伝導のイヤホンには耳栓がついてきますが、耳栓をして骨伝導のイヤホンを使えば、音量をかなり下げられるのでこちらもお勧めです。

ヘッドホンや耳栓を耳の穴に入れ続けることでの影響

――ヘッドホンや耳栓など、耳の中にモノを入れ続けることで、耳の中の皮膚部分への悪影響はあるのでしょうか。入れっぱなしにすると痛くなったりもしますよね。

富田: 聴力以外の、耳の皮膚の影響を心配される方もいますね。ですが、実際それで病院にかかる方は多くはないですね。結局耳の穴の中も、表面は皮膚です。手の皮膚で考えても、手に傷がなければ、何か感染し、炎症を起こして、ということにはなりません。

耳の健康を害さない音は、どのくらいの大きさなの?

音の大きさを表す単位に「デシベル(dB)」がありますが、なかなかなじみのない単位であるため、実例について伺いました。

生活のさまざまなシーンの音は、何デシベルくらいなのか

富田: さまざまな場所が何デシベルくらいか調べた研究『「騒音の目安」作成調査結果について(騒音調査小委員会)』があり、こちらから紹介しますね。

<騒音の目安(都心・近郊用)>
90dBパチンコ店内
80dB飛行機の機内、地下鉄・在来鉄道の車内、主要幹線道路周辺(昼間)、蝉の声
70dB新幹線の車内、コーヒーショップ・ファミリーレストランの店内
60dB銀行の窓口業務、博物館の館内、役所の窓口周辺、書店の店内
40dB図書館の館内
30dBホテルの室内

引用元:全国環境研会誌 Vol.34 No.4 (2009)
「騒音の目安」作成調査結果について(騒音調査小委員会)
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/okugai_keihousouti21.pdf
騒音の目安(都心・近郊用)から一部抜粋

騒音だと感じられるのは80デシベルくらい

――「うるさく感じる」のは大体何デシベルぐらいからなのでしょうか。

富田: 一般的な騒音は80デシベル以上ですね。工事現場は80デシベル以下になるよう規制されています。

――10デシベルって、デシベルのイメージがつかめないころは大したことがないように思いましたが、工事現場でも80デシベル以下だと思うと、軽い気持ちで上げられないですね。

富田: また、WHOは難聴の予防のため、80デシベルの大きさの音を聞くのは、1週間に40時間までにとどめるべきだと提言を出しています。交通渋滞や地下鉄の車内などが80デシベルです。
ここで特に気を付けないといけないのが、電車内などでイヤホンを聴いている人です。周囲がうるさい時、周囲の音より10デシベル程度音量を上げないと音楽や音声が聞こえません。
ですので、電車の内で音楽やゲームの音を聞こうとすると90デシベル程度の音量におのずとなってしまうのですね。なお、90デシベルまで上がってしまうと、週の安全な時間は4時間までになります。

――通勤、通学の電車内でイヤホンを使う人は多いと思いますが、そうなると一週間で4時間を超えてしまう人はとても多そうですね。
WHOホームページより
https://www.who.int/news-room/questions-and-answers/item/deafness-and-hearing-loss-safe-listening

WHOは音量レベルの「6割」を推奨

富田: なお、イヤホンなど音量を調整できるものについてWHOは「電子機器の音量レベルの6割」の音量で聞くことを推奨しています。
ですが、実際テレビなども、「音量は〇デシベルまでで作りましょう」という基準がないんですよね。実際患者さんでも「テレビの音量のメモリが前までは「1」で聞こえたのに、今は「12」にしないと聞き取れない」と話される方もいらっしゃるのですが、音量の目盛りによってどのくらいの音量で聞こえるかは、製品によって違うんです。

子どもの耳トラブルに早く気づくために

子どもの耳の不調に保護者が気づくために、どのような点に気を付ければいいのでしょうか。

小さな子どもは耳の不調を説明できないことも

富田: 子どもの耳の不調にどう気づくかですが、小さなお子さんでしたら後ろからわざと呼んでみたり、テレビを以前よりも前に行って見るようになったというのも兆候かもしれません。聞こえないから前に行くんですよね。
また、小学生くらいだと「耳鳴り」という言葉がわからないので、全部「痛い」になって、「耳が痛い」と病院に来られるお子さんは結構いますね。
また、お子さんが耳の不調を訴えたときに「耳をいじったからでしょう」とか「イヤホンで音楽ばっかり聞いているからでしょ」と決めつけないでください。
子どもも保護者に言ったところで怒られるだろうからと、黙っていることもあるんです。診察でいつから不調があったのと尋ねると「半年前から」と答える子もいるんですよ。
先ほどもお話した通り、耳の不調は早期対応が肝心なので、お子さんの様子がおかしいと感じたら、すぐに医療機関を受診してください。

耳の健康のために、親子で結んでおきたい約束とは

耳の健康のために、親子で結んでおきたい約束とは

――耳の健康のために親子でどのような約束を作ると良いでしょうか。

富田: 今までのまとめになりますが、やはり「耳を休ませる」ですね。目より休ませる意識が低くなりがちなので、親子で約束し、意識したいところです。
あと周りがうるさいとイヤホンの音は大きくなりがちですので、イヤホンをするときはノイズキャンセル機能や骨伝導のイヤホンと耳栓を使うなど、耳の健康に配慮した機能を活用しましょう。
あとは「寝落ちのまま音を垂れ流さない」ですね。オフタイマーなどの機能を活用してもいいと思います。
そして最後に、難聴は早期診察が重要なので、「聞こえで問題を感じたら、すぐ保護者に伝えてほしい」ですね。

POINTまとめ
  • 耳の不調は早期対応がカギ!おかしいと思ったらすぐ医療機関へ
  • ノイズキャンセリングイヤホンで、音量を上げ過ぎない工夫をしよう
  • 目よりも「休ませる」意識が薄くなりがちな耳。きちんと休ませて

POINTを意識して約束を作ってみる

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石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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