親子でスマホ・ゲームお約束メーカー
インタビュー
2023年10月30日

このままで合格できるの?ゲーム・スマホばかりで勉強しない受験生。厳しい受検勉強と楽しいゲーム・スマホに向き合うために親子でできることとは?

受験という人生の一大事を前にしてるのに、さっぱり本人には自覚がないわ!

まだまだ目の前のことしか考えられない子どもも多いのじゃ……

もくじ
親野 智可等さん親野 智可等さんプロフィール
教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOk』などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。 Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メルマガ、講演のお問い合わせなどについては「親力」のHPから。

受験生なのに、子どもが勉強しないでゲームや動画視聴ばかりをしていて、このままでは合格できない!?と頭を抱えている親御さんも多いのではないでしょうか?今回は長年の教師経験をもとに、多くの媒体で子育て情報を発信されている教育評論家・親野智可等(おやの・ちから)さんに、厳しい受験勉強と楽しいゲーム・スマホとどう向き合うべきか伺いました。受験という親子で臨む大きな岐路で後悔しないためにも、ぜひ参考にしてください。

中学3年生という時期を理解する

受験があり反抗期でもある中学3年生とはどのような時期なのか、尋ねました。

脳のアクセルは成長するが、ブレーキは不十分な時期

親野:中学3年生がどのような時期か、親側で理解しておくことが、非常に重要です。
発達心理学を研究されている京都大学の森口先生によりますと、中学生になると小学生の頃より、自我も出て、力もついてくるんで、やりたいこと、欲求が大きく増えるんです。ですが欲求を抑えるブレーキ役の脳の「前頭前野」は十分に成長していないため、キレやすくなってしまうんですね。

――ブレーキが利かないまま、アクセルだけが大きくなってしまう時期なのですね。

親野:はい。ただでさえ中学生は脳の発達が不安定な上に、この時期は友達にどう見られるかが非常に気になる時期です。さらに今はSNSも発達しているから、余計に友達の動向が気になる。それに加えて受験もあるので、ストレスがいっぱいなのです。

親野智可等さんインタビュー風景

中学3年生は「個人差」が大きい

親野:中学3年生を理解するにおいて「個人差がとても大きい」のもポイントです。学力も、やる気も、自己管理力も差があり、一概に中学3年生だからとは言えません。幼い子も早熟な子もいます。
受験という大きな節目を目前にしていますが、中学校3年生では、目の前のことしか考えられない子どもも、まだまだ多いです。「子どもが人生を長期的な視野で見られるようにするには、どうしたらいいでしょうか」と親御さんから時々聞かれるんですが、難しいですね。その子の成長ペースがありますので。

子どもの勉強のやる気スイッチを押すには親は何をすればいい?

――成長ペースを待たないといけない一方で、受験も迫っています。子どもの勉強のやる気スイッチを押すために、親ができることはあるのでしょうか。

人生設計について親子で話す

親野:「子どもの勉強のやる気スイッチを押す」のは本当に難しい、永遠のテーマです。その前提で、親ができることとしては「○○高校合格」にとどまらず、今後どういう生き方をしたいかという将来設計を親子で話すのというのはとてもいいと思います。
子どもが急に人生設計と言われても難しいかもしれませんが、親子で人間同士としてこれからについて会話をするのは貴重な経験になります。そのとき子どもがはっきりとしたことが言えなくても、そういう経験すること自体が1つのきっかけになりますから。

――親の人生設計を伝えてもいいかもしれませんね。

人生設計について親子で話す

大人にもお勧めの「とりあえず方式」

――子どもに勉強をさせるための具体的なテクニックがあれば教えて欲しいです。

親野:「とりあえず準備方式」をお勧めします。学校や塾から帰ってきたら、とりあえず宿題や勉強に必要なものを、机の上に出す。できたら、やるページを開いておく。さらに一歩進めた「取りあえず一問方式」も効果的です。数学のプリントだったら1問だけやってみる、書き取りなら一字だけ書いておくなどです。
準備したり、1問だけやったりするときに全体の見通しがつきます。すると、ゲームや休憩をした後で本格的に勉強に取り掛かる時のハードルが下がるんです。脳科学者の方も「やる気スイッチはやり始めると入る」とお話しているので、とりあえず準備だけ、1問だけ解くことです。
私自身も整理整頓が苦手で、食後に「とりあえず」1個捨てる断捨離を続けていますよ。ついでに2個、3個とか捨てられるんです。「取りかかるハードルを極限まで下げること」がポイントです。

――確かに「やるまで」がおっくうなんですよね。 大人でも「とりあえず方式」は使えそうですね。

とりあえず方式

ゲーム好きな受験生の親がやりがちなNG対応

ゲームに夢中な子どもが気がかりなあまり、逆効果の対応をしていないでしょうか。親子の価値観の違いから考えていきます。

ゲームに関する価値観は親子で真逆

親野:親と子どものゲームに対する価値観は、全然違うんですよね。子どもたちにすれば、ゲームはとにかく楽しいし、嫌なことも忘れられる。あとゲームでは目標を設定して、それに向かって自分で工夫したり、クリアできると達成感を得られて、自己肯定感も上がります。現実生活だと日々目標を達成するというのも、なかなか難しいですよね。さらにゲームは大勢の子どもが楽しんでおり、子ども同士の話題の中心でもあります。
でも親の立場からゲームを見ると、時間ばっかり費やして、勉強も運動もしないし、お金や人間関係も心配になる。とにかくトラブルやリスクが心配で、できるだけやらせたくない。この真逆の価値観から、ゲームをきっかけに親子関係が悪化しかねないんです。

ゲームに関する価値観は親子で真逆

大切なのは親からの歩み寄り

――ゲームの価値観が親子で大きくずれる中、親はどうすればいいでしょうか。

親野:親側から歩み寄って欲しいですね。「ゲーム、楽しそうだね」と子どもに伝えてみる。そうすると、一気にしゃべりだす子どもも多いですよ。ゲームのことだと熱心に話すのも、それだけゲームに時間もエネルギーも気持ちも入れ込んでいる証と言えます。なので、親は「楽しそうだね」「よく工夫しているんだね」と肯定的に子どもの話を聞きましょう。 もし、子どもが「みんなやってるから、自分もやってないと話についていけない」と言ったら、「確かにそうだよね」と共感してあげましょう。また、ときには子どもにやり方を教えてもらったり、一緒に楽しんでみたりするのもいいですね。
ゲームを厄介なものと見なさず、親子関係のコミュニケーションの媒体にしてほしいです。ゲームについて、課金や利用時間など心配事も当然ありますが、それを子どもに伝えることができるのは、親が子どもの話を肯定的に聞くコミュニケーションが日々取れてからです。

――急がず、まずは信頼関係の構築からですね。

約束づくりは「共感的、民主的な対話」で行う

親野:ゲーム・スマホに限らず、あらゆる親子の約束づくりでは「共感的かつ民主的な対話」がポイントです。親が「ゲーム・スマホは1日1時間!」と子どもに言うのは、対話ではなく親からの命令で、まず守られないでしょう。親が自己満足するだけです。
「共感的かつ民主的な対話」は、外交交渉のようなものですね。主張するところは主張するけれど、主張ばかりでは解決しないから、互いに譲ったり着地点を見つけたりしていく。例えば、「……じゃあ、そこは譲ってその時間でいいけど、その代わり宿題が全部終わってからやるという条件にしよう」というような感じで着地点を見つけていきます。

親が子ども扱いするから、子どもじみた反応が返って来る

――しかし、子どもに「共感的で民主的な対話」はできるのでしょうか。

親野:親が子どもを子ども扱いすると、子どもはやっぱり不満ですし、それでいつまでも子どもじみた反応になってしまうんです。子どもと大人は対等であり、人間同士リスペクトしあう関係が大切です。

――子ども扱いするから、子どもじみた反応が返って来て、また子ども扱いし……、の悪循環ですね。

親野:はい。特に反抗期に入ったあとは、親は子どもを対等な1人の人間として対応することが大切です。そうすると、子どもはリスペクトに応えようと心が成長しますから。

親子の約束をホワイトボードに記入する理由

親野:そして親子で作った約束は、書かないと忘れるのでホワイトボードに書きましょう。ホワイトボードを勧める理由は他にもあり、約束を実際に運用すると「これは無理だな」みたいなことが絶対出てくるんです。
肝心なのは、そこで「どうするか」です。「いいからとにかく守れ!」ではなく、「うまくいかないね、実態に即していないね」とまた共感的、民主的な対話で約束を修正し、ホワイトボードを書き直す。これが大事です。

親野智可等さんインタビュー風景

面倒な「共感的で民主的な親子の対話」をして欲しい理由

――「共感的で民主的な対話」、大事なのは分かるのですが、大変そうですね……。

親野:面倒くさいのですが、ぜひやってほしいですね。というのも、今回はゲームについてのお話ですが、子育てではさまざまな難題やトラブルが親子の前に出て来ますから。
学校でいじめられた、いじめた、喧嘩をした、もう学校行きたくないとか、塾を辞めたいとか、友達のモノを壊したとか、友達に万引きしようと誘われたとか……。
このような非常時にも、「共感的で民主的な親子関係」があれば、子どもは「うちの親は話を聞いてくれる。一緒に考えてくれる」と思えるので、早い段階で親に相談できます。ですが、こういう関係が構築されていない場合、子どもは親に叱られることを恐れて言い出せません。そうなると、問題が大きくなってから発覚してしまいかねません。

親がゲームを制限するデメリット

――親が一方的にゲームやスマホを制限することについてはどうでしょうか。

親野:子どものゲーム機・スマホを没収する、時には壊してしまう、といった「実力行使」はお勧めしません。これは「相手が言うことを聞かないときは、暴力的な方法で解決すればいい」と親がお手本を見せているのと同じです。
さらにまずいことに「実力行使」は一定の効果があるため、今度は子どもが家庭や学校で別のトラブルに遭遇した時に、親から学んだ「実力行使」に出る可能性は高まるでしょう。私はこれを「裏の教育」と呼んでいます。ですので、どんなに頭に来ても、そういう暴力的対応に出てはいけないんですね。

イライラして、子どもにキツイ言葉を言ってしまったときはどうする?

――子育てではイライラしてしまうこともあり、子どもに対して暴力的な言葉でキレてしまうこともあると思います。「やってしまった!」というとき、どうリカバリーすればいいでしょうか。

親野:気づいた時に、すぐ謝るのがいいですね。「ごめんね。今ひどい言い方しちゃったね」と。これは絶対大事です。またそもそも、そうしたキレ方をしないためには、「アンガーマネジメント」で検索して、自分に合ったアンガーマネジメント方法を2,3個みつけておくといいでしょう。

――まずい、と思ったら深呼吸するとか、「ちょっと席を外すね」と一時離脱するのもよさそうですね。

共感的で民主的な約束づくりの導入に活用

――『お約束メイカー』の感想について教えてください。

親野:このようなツールはきっかけ作りになるので、非常にいいですね。ただ中学3年生の場合は、民主的な対話のもとで約束が作られるといいのかなと思います。

POINTまとめ
  • 親子間に横たわる「ゲームの価値観のズレ」は親が歩み寄って
  • 子ども扱いするから、子どもじみた反応が返って来る
  • 「とりあえず方式」で勉強へのハードルを下げて

POINTを意識して約束を作ってみる

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石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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