ネット上の利用規約って、字が小さいし、小難しい内容だから読んだことがないのよ~
規約を守らないと、訴えられたり、大金を請求されるかもしれないゾイ!
- もくじ
- 原口直さんプロフィール
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東京学芸大学卒業後、大手芸能プロダクショングループ勤務を経て音楽科教諭。東京都公立中・東京学芸大学附属世田谷中に勤務後、2020年より学校勤務経験を活かして机上の法律と学校現場をつなぐ「学校著作権ナビゲーター」としての活動を開始。講演活動・情報発信・執筆活動を行っている。
現代の子どもたちは、小学生からスマホを持ち、インターネットを積極的に利用しています。しかし、その裏で著作権侵害のリスクも高まっています。人気キャラクターの画像をSNSのアイコンに使うことや、YouTubeにお気に入りのアニメをアップロードすることなど、子どもたちにとっては悪意のない行動が、違法行為につながる可能性があります。「知らなかった」では済まされない著作権のルールと、トラブルを起こさないための対策を、学校著作権ナビゲーター・原口直さんに伺いました。
著作権とは?基本ルールを知ろう!
原口さんが全国の学校で講演されている内容をもとに、著作権の基本ルールを教えてもらいました。
著作権の基本:人の作品を使うときは許諾を取る

原口:著作権は、作品を作った瞬間に、その作品を作った人に付与される権利です。「特許」「商標」は申請が必要ですが、「著作権」に申請はありません。
——例えば、原口さんがイラストを描いたら、その時点でイラストの作者である原口さんにイラストの著作権が発生するということですね。
原口:はい。そして著作権を守る法律が「著作権法」です。第124条までありますが、原則は「作品は作った人のもの。作者以外の人が使う時には、作った人から許諾を取る」です。
著作権の例外:学校利用はOKな場合も
原口:「許諾を取る」が原則ですが、著作権法にはいくつかの例外があり、そのうちの一つが学校等の教育機関での利用です。著作権法では、学校等での著作物の利用は、一定の範囲内で許諾を取らなくても使用を認めています。なので、学校の先生や生徒たちも一定の範囲で著作物を使うことができます。
——しかし、学校がプールに有名キャラクターの絵を描いて、版権元から学校に削除の要求があったという事例を聞いたことがあります。
原口:学校であればなんでも使っていいわけではなく、許諾を取らなくていいのは授業の中や行事、子どもたちの委員会活動などで使うことであり、ほかにも「最低限」など守るべき項目はありますが、学校では著作物を許諾なしで使うことは可能です。逆から言えば「学校ではないところで、学校と同じように他人の著作物を許諾なしに使うと違法」なんですね。
※学校等での著作物の利用については、文化庁の「学校における教育活動と著作権」をご参照ください。
著作権を怖がらず、上手に活用する意識を
——著作権法に気を付ける必要があるし、許諾がいるし、例外もあるしと、それなら人の著作物を利用しない方がトラブルもなく楽だなとも思ってしまいます。
原口:面倒ではあるのですが、著作物は「使ってなんぼ」ということはお伝えしたいです。というのも、新しいものを生み出すためには、それまでの名作を知らなくてはいけません。
私自身、音楽が専攻なので、多くの作曲家、作詞家の方の音楽という著作物を聴いてきました。そうすることで、自分で「こういう音楽が表現したい」という創作へのきっかけなどが生まれてくるんですよね。音楽に限らず、あらゆる創作物がそうだと思います。
過去の名作から新しいものが生み出されるサイクルを正しく回していくためには、「著作権を怖がる、面倒くさがる」ではなく、「先人の著作物を正しく使う」意識が大事になってくると思っています。
子どもと著作権のトラブル事例【画像/動画/音楽】
子どもに実際に起こっている著作権トラブルについて伺いました。大人でもやらかしている人は大勢います!
多いトラブルは「写真」。写真の権利は誰のもの?

——子どもたちが人の著作物を使用することに関して、どのようなトラブルが多いでしょうか。
原口:やはり学校は著作権の「例外」であり、学校では自由に使えているからと、これと同じ感覚で自宅や放課後に他人の著作物を許諾なく使ってトラブルになるケースはありますね。
それ以外で子ども世代に多いのは「写真」のトラブルです。
写真には撮った人と撮られた人の両方に権利があります。例えば、先生が1年1組のみんなの写真を撮ったら、まず撮影者である先生に「著作権」があります。なので、その写真を使うときは先生の許諾が必要です。一方で撮影された1年1組のみんなも、勝手に写真を公開されないという「プライバシー権」があります。その両方の権利を考えなくてはいけません。
——写真1枚を公開にするにも著作権、そして著作権以外の権利が絡んでくるのですね。
人気キャラクターを許諾なしで使うのがNGなら、真似て描いたものはOK?
原口:ほか、著作権について学校で講演すると、子どもたちからの質問でとても多いのは、「アニメやゲームなどのキャラクターを許諾なしに使うのが著作権法上でNGなら、真似て自分で描いたキャラクターならOKなんですか?」というものです。
回答から言いますと、真似て描いたものは、真似て描いた人に権利があるけれど、真似た元を描いた人にも権利が残り続けます。
——真似て描いたから好き勝手に使っていいわけではない、ということですね。
アニメやゲームのキャラクターをSNSのアイコンにしていい?
——ネット上に掲載されているイラストやアニメ、芸能人やアイドルの写真といった公式画像をSNSのアイコンに使っている人は大人でも大勢いますが、こちらも「無許諾ならダメ」ということですよね。
原口:はい。許諾なしにSNSのアイコンにするのはNGですが、「ネットに公開されているような画像を自分のパソコンの壁紙にする」場合は「私的利用」にあたり、許諾は不要です。「自分しか見ていない」のであれば「私的利用」であり、許諾は不要ということになります。一方でSNSのアイコンは、ネットにアクセスすれば大勢の人に見られてしまいますからね。
——「私的利用」というと、ついつい「ネットに公開されている画像などでお金儲けをしていなければ、私的利用になるのでは?」と勘違いしてしまいがちですが、著作権法上の私的利用はそうではなく、「自分以外、誰も見ない環境なのか」というところがポイントなのですね。
著作権は親告罪—著作権者が「権利を侵害されています」と訴えることではじまる
原口:なお、「著作権」は原則として親告罪です。親告罪とは、被害を受けた側やその関係者が、検察もしくは警察に訴えることで、はじめて手続きが進みます。
——被害者の訴えがなければ、そのまま、ということなのですね。確かに、親告罪の反対の「非親告罪」には殺人罪、強盗罪などがありますが、これらは被害者や関係者が被害を訴えなくても警察は捜査しますよね。
著作権者に見逃してもらっているだけの人が多いが、明日どうなるかはわからない!
——つまり今、SNSのアイコンにアニメやゲームのキャラクターや、芸能人の写真を許可なく使っている人は大勢いますけれど、これは「著作権者から訴えられていないだけ(見逃してもらっているだけ)」という状況なのですね。
原口:そうです。もし明日、著作権者が「やっぱりSNSのアイコンに利用されては困ります」と訴えたら、使っていた側は罪に問われる可能性が出てきます。
著作権者側が訴えたケースもある!
——2021年には人気アニメのキャラクターが描かれたケーキを無許可で販売した人が著作権法違反で書類送検されましたね。
原口:はい。これも著作者側が「許諾なく作品を利用されては困ります」と訴え出たから、このような事態になった、ということです。
——芸能事務所やアニメ制作会社などによっては、公式ホームページ内のガイドラインなどで「公式の画像をSNSのアイコンで利用してもOK」と記載しているところもあり、このケースでしたら許諾なしでも使えますね。ただ、OKではないところも多いですから、かならず「公式の見解を確認」ですね。
「歌ってみた」で人の歌を勝手に歌う動画は問題あり?なし?
——今までは写真や画像のお話でしたが、「歌ってみた」「踊ってみた」系の、人の音楽という著作物を使った動画は子ども世代にも人気です。こちらも音楽という人の著作物を無断で使っているように思えますが……。
原口:こちらは音楽の権利を管理しているJASRACのホームページに詳しく載っています。ここでは「歌ってみた」について説明しますね。
JASRACフローチャート
例えば「人気ミュージシャン・Aさんの曲を、他人が弾き語りした動画を作り、YouTube、TikTokにアップロードした」ケースで考えてみましょう。
JASRACフローチャートを見てほしいのですが、弾き語りの場合、動画で使用する音源は自作したもの(自ら演奏、または制作したもの)であり、かつ、YouTubeやTikTokはJASRACと提携をしているサービスなんですね。これらの条件を満たした「歌ってみた」動画であれば、違法ではありません。
——そうなると「Aさんの曲を弾き語りした動画を作り、ネットにアップする」という同じことをしていたとしても、その掲載先がJASRACと提携しているサイトかどうかで、違法かどうかが分かれる、ということなのですね。
原口:その通りです。いろいろなケースが想定されるので、音楽を使用する際にはJASRACフローチャートを参考にしてみてください。
※「踊ってみた」に関しては原口さんのホームページをご参考ください
https://maruc.work/20220612-youtube
フリー素材なら、好きに使っていいと思っていませんか?
著作権について考えると「トラブルを避けるために、フリー素材を使えば問題ないのでは?」と考える人も多いはず。しかしこのフリー素材、確認をしないで使うと大変なことにもなりかねません。
「フリーに騙されるな!」~フリー素材なら好き勝手使っていいわけではない
——著作権、考えないといけないことが多くて「いらすとや」などのフリー素材を使いたくなります。
ですが、フリー素材を使ったはずなのに、素材サイトからあとから高額な料金を請求されて……という事案がニュースになっていたりもしますよね。
原口:はい。「無料(フリー)に騙されるな!」というのは、とても大切なポイントです。
フリー素材サイト上に、大きく「無料」「フリー」と書いてあっても、実際は「条件付き無料・フリー」のところが多いのです。これはフリー素材サイト上の「利用規約」にきちんと書いてあり、利用者はサイト上の素材を使う以上、利用規約に同意していなくてはいけません。
いらすとやも、有料のケースあり!
原口:実は、フリー素材で有名な「いらすとや」さんでも有料の場合があり、それは利用規約にしっかり書かれているんですよ。
いらすとやさんの利用規約を見てみましょう。
(※以下、利用規約は2025年4月時点の内容です。最新の利用規約は各サイトのホームページなどでご確認ください)
いらすとやさんでも利用規約に「個人、法人、商用、非商用問わず無料です」と書いてありますが、「素材を21点以上使った商用デザインや、高解像度のデータは有償です」と記載されているんです。これは講演でもお話するのですが「そうなの?」「知らなかった!」と盛り上がるところですね。
なんでも無料、フリー、タダではないんです。ですので、人の作った著作物を使うときは、必ずその素材サイトの利用規約を読んで、守ってくださいとお伝えしています。
「利用規約なんて面倒、読まなくていいや!」では大変なことになる!

——利用規約のページって、 小難しい内容が多く、長くて、文字も小さくて、読むのが面倒なんですよね……。
原口:ただここは、そのサービスを使う以上は読まないといけないところです。フリーとトップページに大きく書いていながら、実際に利用規約を読んでみると、使える素材数の制限や、会員登録が必要であったり、改変、商用利用は禁止しているなどの「条件付きフリー」だったりするんです。
——そうなると、利用規約を読み飛ばし「条件付きフリー」だと知らずに使った場合、素材サイトにしてみれば「利用規約に条件をちゃんと書いてありますよね?規約通りこちらはあなたに●万円請求しますよ」となってしまう、ということですか?
原口:はい。「フリー」「無料」の文言には気を付け、素材を使うからには利用規約を必ず読み、規約を守って利用しましょう。後から大変なことになるかもしれません。
「フリー素材 使いたい画像」で画像検索、今すぐやめて!
原口:また、いただけないフリー素材の使い方として、「桜のイラストのフリー素材を使いたい」からと、Googleで「桜 フリー素材」と画像検索をして、検索された画像の一覧から、気に入った画像を右クリックで「画像を保存」をして使う方もいたりしますが、これは今までお話してきたことから、当然やってはいけません。
——この方法だと、利用規約を全く見ないどころか、どのサイトの素材かもわからずに使っていますよね。
でも、素材サイトの中には、「利用規約を読むのを面倒くさがる人が多いこと」から、上記のような画像検索の機能を逆手に取り、規約を守らないで素材を利用させることを狙っているようにも思えます。
原口:もしかしたら、そのような考えもあるのかもしれません。ですが、素材サイトが用意した素材(作品)には、作るためにたくさんの努力をしています。ゲームという著作物を提供しているガンホーさんもそうですよね。
著作権者側からしたら、「作るためにたくさんの努力をしたのだから、お金をいただくのは当たり前。無料で手に入るわけないよね」という考え方もあるわけです。
——当たり前のようにタダで使えるけれど、なぜ使えるのだろう?と親子で考えることはよい学びになりそうですね。
子どもが著作権を侵害しないために保護者が気を付けること
最後に、未成年者が著作権を侵害してしまい、事件となったケースや、そのような事件を防ぐために保護者ができることについて伺います。
未成年の著作権違反で事件化してしまったケース
——未成年の著作権違反で逮捕などにつながった事例もあるのでしょうか。
原口:はい。中学生が人気漫画をYouTubeにアップロードした事例や、高校生がアニメキャラのステッカーやキーホルダーを自作して販売した事例があります。
このような事件は、親世代が子どものころは技術的に難しく、また画像や動画を公開したり、グッズを作れるサービスなども存在しなかったので不可能でしたが、今はどちらも「やること」自体は、簡単にできてしまうんですよね。しかし、もちろん法律上問題のある行為です。
——簡単にできてしまうことだから、やってはいけないと伝えることが大切ですね。
原口:はい。できることと、やっていいことは全く違います。
著作権から社会を知れる。親子で学ぼう著作権

——著作権トラブルに子どもが巻き込まれないために、保護者ができることにはどのようなことがあるでしょうか。
原口:まずは保護者自身が、著作権のことを知ってほしいですね。保護者の世代では、学校では教えていないので、今から子どもと一緒に著作権を学んでほしいです。
——今回お話を伺っていて、難しそう、面倒くさそうだと思っていた著作権も、切り口次第で社会を知れる、面白く学べることはとても発見でした。
原口:保護者の方も、先生もそうですが、「子どもよりも先に知っていなきゃいけない」「子どもに教えてあげないといけない」となりがちですが、一緒に学んでいくこと、一緒に考えていくことが大切だと思います。
- POINTまとめ
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- 著作権の原則は「許諾を取る」。ただ、学校など例外も
- 「フリー素材」のフリーに騙されない!使うからには利用規約は絶対読む!守る!
- 著作権法を怖がるのではなく、著作物を正しく活用する意識を
インタビュアー/ライター
石徹白 未亜- いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂