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インタビュー
2023年11月9日

画面の向こうには同じ人間が繋がっているのに大丈夫?親としてやめてほしいゲーム中の子どもの暴言の対策方法

子どもがゲーム中にとんでもない暴言を!こらっ、やめなさい!

その介入は逆効果じゃ!!いい介入方法を教えるゾイ!

もくじ
森山 沙耶さん森山 沙耶さんプロフィール
ネット・ゲーム依存予防回復支援サービスMIRA-i(ミライ)所長 公認心理師、臨床心理士、社会福祉士 2012年、東京学芸大学大学院教育学研究科修了。家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。 2019年、ネット・ゲーム依存予防回復支援サービスMIRA-i(ミライ)を立ち上げ。当事者とその家族に対するカウンセリング、予防啓発のための講演、執筆活動を行う。 著書に『専門家が親に教える子どものネット・ゲーム依存問題解決ガイド』(2023年7月Gakkenより発売)

子どもがゲームを遊んでいる時に「ふざけんなよー!」「なんだよ!バカヤロウ!」などの大きな声を聞いたことのある親御さんも多いのではないでしょうか? ゲーム中の子どもの暴言により、ボイスチャットで対人トラブルに発展してしまうのでは?学校の友達にも同じように言っているのでは?と心配になるケースもあるかと思います。今回は、臨床心理士の森山沙耶さんに、ゲーム中の暴言について親がどう接していけばよいのかを伺ってきました。

そもそも人はなぜ暴言を吐くのか

暴言の対処法を考える前に、人が暴言を吐くメカニズムについて伺いました。

暴言を繰り返してしまうのは、短期的に得られる利益があるから

――そもそも、なぜゲーム中に暴言を吐いてしまうのでしょうか。

森山:心理学の応用行動分析では、行動を生じさせる引き金、それによって生じる行動、行動の結果という3つの結びつきによって行動が生じると捉えます。その観点からゲームの暴言を分析してみると、以下のようになります。

【引き金】
ゲームに負ける、自分やゲーム仲間の立ち回りに不満でイライラする、ゲーム仲間から自分の言動を責められる

【行動】
暴言を吐く

【結果】
気持ちがスッキリする、イライラが減る、やり返してやったという気分になる

このように暴言を吐いた結果、本人にとって「メリット」が得られるという経験をすると、暴言は繰り返されるようになります。

――でも、暴言で自己嫌悪に陥ったり、周囲から嫌われるという大きなデメリットもありますよね。

森山:はい。短期的な「暴言でスッキリする」というメリットと、長期的に「暴言を続けることでの人間関係の悪化」といったデメリットがあるわけですが、特に子どもの場合、「短期的に得られるメリット」の方が行動の選択に影響を与えがちです。
というのも、10代の脳は欲望、欲求をつかさどる「大脳辺縁系」が成熟する時期ですが、一方で欲求にブレーキをかける理性をつかさどる「前頭前野」の成熟は20代ぐらいと遅いのです。
ですので、脳の成長段階的に衝動的な行動が出やすい10代の場合は「長期的なデメリット(暴言によって嫌われる等)」が頭では分かっていても、つい「短期的なメリット(暴言でスッキリする)」が優先されてしまいがちなんですね。

暴言を繰り返してしまうのは、短期的に得られる利益があるから

脳以外に「環境」の要因も大きい

森山:もちろん、暴言を吐かない子どももいます。暴言を吐く、吐かないは脳の成長段階だけでなく、子どもを取り巻く「環境」の影響も大きいと思われます。
子ども本人がよく見ているゲーム配信者やプロゲーマーがゲーム中に暴言やスラングを吐いていて、それをかっこよく思って真似してみたくなるとか。そういったことで「学習する」ケースもありますね。

――ゲーム上の暴言により、どのようなトラブルが起きているのでしょうか。

森山:友人にゲーム内で暴言を吐き、関係がギクシャクしてしまうケースや、保護者と子どものトラブルも聞きます。子どものゲーム中の暴言を聞き、保護者が止めに入った結果、興奮した子どもに暴力を振るわれた、などのケースです。

暴言対処のためのアンガーマネジメント

暴言を吐いてしまうメカニズムに続いて、対処法について尋ねます。

その場で暴言を止めようとしない

――子どものゲーム中の暴言に対し、保護者はどう対応すればいいのでしょう?

森山:まず皆さんにお伝えしているのは、その場で暴言を無理にやめさせようとしないことです。その場での介入は意味がないどころか、火に油を注いでしまい、ますますお子さんの暴力的な言動が大きくなってしまいます。
話し合うのは、子どもが落ち着いたタイミングです。感情は基本的に一過性のものなので、ある時点ですごく感情が高ぶったとしても、ある程度、時間を置くと落ち着いてきます。なので、そのタイミングで話し合ってみましょう。
また、そもそもですが、ゲーム自体が興奮しやすいものですよね。

――癒し系のゲームや、黙々と取り組むゲームも中にはありますけど、多くのゲームはエキサイトする、興奮するものですよね。思わず大きな声が出てしまうスリリングなゲームも多いです。

森山:仮想空間とはいえ、命を賭けて戦うゲームも多いですから、興奮してしまいますよね。しかし、ゲームしている時以外で暴言を吐くなど大きな問題がないなら、心配しすぎなくていいと思います。ですが、暴言がエスカレートしてきたり、他人を傷つけるようなものであれば暴言ではない代わりの方法を考えたいですね。例えば、過去のケースでは暴言の代わりにどのような言葉で怒りの気持ちを表現するか、言葉が難しければイライラした気持ちをクッションなど安全なもので発散させるなどその人に合う方法を見つけていきます。詳しい方法はこれから説明していきます。

その場で暴言を止めようとしない

怒りに蓋をしてはいけない~暴言を吐かないためのアンガーマネジメント~

――子どもが落ち着いたら、どのように暴言対策を伝えていけばいいでしょうか。

森山:まず、暴言のもととなる「怒り」のとらえ方をあらためて考えたいですね。
怒りに対しては「怒っちゃいけない!」と、つい蓋をしたくなります。しかし、アンガーマネジメントでもよく言われていることですが、怒りの気持ち自体は人間が持っていて当然の感情であり、「自分が傷つけられた」などの問題や危険を知らせてくれる大切な役割があります。
重要なのは、「怒りには蓋をする」のではなく、「怒りをどう表現するか」なのです。

――「怒っちゃだめだ!」でなく、「怒りと上手に付き合えるようになろう」だと思うと、気持ちがとても楽になりますね。

森山:怒りの感情が起きた時に、どう表現するかは人によってスタイルがかなり違います。もし暴言、暴力で怒りを発散するやり方が固定化してしまうと、選択肢がそれしかなくなってしまいます。

怒りは二次感情~怒りの前にあるもの~

森山:また怒りは「二次感情」であり、怒りの前に「一次感情」として悔しさや悲しさなど別の感情があると言われていています。子どもが怒っているとき、その一次感情に対して「悔しかったね」「悲しかったね」と寄り添い、共感してあげてください。そうしつつも、「怒りの表現の仕方については一緒に考えていこう」というスタンスがいいと思います。

――怒りに気づくこと、さらに怒りの手前にある、悔しさや悲しさなどの「一次感情」に気づくことなんですね。

怒りと一生上手に付き合っていくために

――怒りを暴言や暴力で表現せず、上手に付き合っていくためのポイントについて教えてください。

森山:大事なのは怒りに早めに気づくことですね。ずっと我慢してると、爆発して暴言につながりやすいですから。
体がこわばってきた、舌打ちが出るなどは怒りのサインであり、爆発する前に深呼吸してみるのもいいですし、ゲームからいったん離れてもいいですね。ゲームでイライラしているから、YouTubeを見ようとか。
ただ友達と一緒にゲームしている場合、途中離脱が難しいかもしれないので、「ほどほどに言う」ができるといいですね。友達の言動にイライラしたなら、暴言の形で爆発させる前に、「その言い方はやめてほしい」や「今のは少し嫌な気持ちになった」と伝えるとか。

――大人でも相手の言動にイラッとしたときに、その思いを上手に相手に伝えるのは、とても大変ですが、それだけにこれができるといいですね。親子の間でそういう訓練をしてもいいかもしれませんね。

森山さんインタビュー風景

こんなときはどうする?子ども暴言ケーススタディ

これは気にしたほうがいい?というケースから深刻なケースまで、子どもの暴言にかかわる様々なケースについて尋ねました。

ケース①1人でゲームをしている時の暴言

――オンラインで誰かとゲームしているのではなく、一人でゲームしている時に暴言を吐く、というケースもよく聞きます。親が気にならなければ、そんなに気にすることはないのでしょうか。

森山:人に対しては暴言を吐かないけれど、1人でゲームをしているときにコンピューターが思うように反応してくれないとすごくキレてしまうケースもありますね。
これらの場合、暴言を受ける「相手」はいないわけですが、ただ親御さんがあまりにも心配になるレベルだったり、親御さんが同じ空間に一緒にいるのが辛いと思ったら、やはり少し介入はした方がいいでしょうね。
子どもが落ち着いたら親の気持ちを伝えてみるのもいいかと思います。また、親の気持ちを伝えるときには、「うるさい!」「やめなさい」という伝え方だと相手は責められた気持ちになり、受け取りにくくなるため、「お母さんはちょっと怖いと感じた」というように主語を自分にして伝えることも大切です。

お母さんはちょっと怖いと感じた

ケース②保護者が子どもの暴言が怖い、と感じるとき

――今お話しがありました、保護者自身が子どもの暴言が怖い、というケースも聞きますね。

森山:はい。子どもから暴言が出ないか不安になってしまう。それが怖いのだけれど、ご近所から何か言われないか気がかりで家にいないといけないという話も伺います。

――気の毒ですね。でも、先ほどのお話から、暴言を吐いている時の子どもは興奮している以上、その時点で保護者ができることはないですよね。

森山:そうなんです。暴言を吐いたその場での介入は逆効果ですし、何より親御さんが自分の身、自分の心、自分が楽になる行動をとっていただきたいです。例えば、子どもがゲームをしているからといって自分がしたいことを我慢するのではなく、自分も好きなことをして過ごすこともできるでしょう。また近所からの苦情にすべて自分が対応するのではなく、子どもにも一部分対応をさせることで責任を感じてもらうといったように、親自身ですべて抱えないことが大切だと思います。

ケース③暴言がゲーム内でとどまらない場合

――ゲームにとどまらず、リアルでの家庭や学校でも暴言を吐いているような場合は、どう対応すればいいでしょうか。

森山:まず暴言には段階があり、基本は先ほどお話ししたアンガーマネジメントが初期段階としてあります。
ですが、家庭や学校でまで暴言が出ているという場合は、それでは収まらない深刻な状況です。その場合は、家庭の中でだけ対処するのは難しいと思うので、親御さんだけでなく、スクールカウンセラー、先生など教育機関、あるいは状況によっては子ども家庭支援センターなどの行政の機関や医療機関に相談してほしいです。
また深刻なケースの背景には、自分の気持ちがコントールできない、ストレスを感じる場面が多いなど、家庭や学校、友達関係などゲーム以外の他の問題を抱えているケースもあります。

怒りと上手に付き合うためのお約束とは?

――暴言を吐かないために有効な親子の約束はあるでしょうか?

森山:怒りが爆発する手前に出るサインを意識して、サインが出たらゲームからいったん離れること。また、相手を傷つけてしまったり、周りの人の気分が悪くなってしまうような暴言が出てしまった場合は、一旦ゲームから離れてクールダウンの時間を持つ、といった約束があってもいいかと思います。

森山さんインタビュー風景
POINTまとめ
  • 目先の「スッキリ」を優先し、暴言が出てしまう
  • 暴言が出たその場で注意は逆効果!
  • 怒りは蓋をするもののではなく、上手に表現するもの

POINTを意識して約束を作ってみる

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石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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